ループ・ザ・館⑦
目覚めるとまた館の前にいた、というのにも慣れたものだと思う。 異常な状況に精神が追い付いていき、少しずつ自身がおかしくなっているのではないかと考えてしまう。
腕や顔を触りここに自分の感触がいることを確かめ少しの安心を得た。 ただ映写機を回すようにシーンは勝手に進んでいき、大貴から強めに叩かれることにも耐性が付いた。
「何をしてんだよ! 早く入ろうぜ!」
そう言って奥へと入っていく大貴の後ろ姿をぼんやり眺める。
―――・・・どうして俺だけ記憶が残っているんだろうな。
―――今回は沙里を助けることができるんだろうか?
沙里が風呂に入ったタイミングで大貴にループしていることを話す。 前回と同じタイミングではあるが、話すタイミングは基本的にここしかない。
「あのさ。 話があるんだけど」
「何? まだ館に勝手に入ったことを怒ってんの?」
「もうここまで来てそんな野暮なことは言わないよ。 今話したいことは別のことだ」
「じゃあ何だよ?」
「俺は何回もこの夜を繰り返している。 いや、正確に言えば今回で十回目になる」
この異様な状況の説明を夢ではなく、超常現象として信じてもらえることに期待した。 というのも、尚斗自身何度繰り返しても今の状況について明確に説明することができないのだ。
大貴はしばらく尚斗を見つめ考えた後に言った。
「・・・まるで映画だな」
だがまるで信じていなさそうな反応に少し落ち込んでしまう。 逆の立場なら自分も信じないだろう。 何か事件が起きて初めて信じようと思うものだ。
「そう、映画みたいなことが実際に起きている。 そして俺たちの身にも映画で起こるような事件が降りかかる」
「はぁ? 何もったいぶったような言い方をしているんだよ! もしかして、沙里と何か話でも付けてんのか?」
「いや、そういうんじゃないんだ。 本当に大変なことが起こるんだって!」
―――駄目だ。
―――説明を大袈裟に言おうとして失敗したのかもしれない。
―――大貴はまるで信じていないのに、この先を言ってもいいのか?
―――いや、失敗したらまたやり直せば・・・。
そう考え次の言葉を飲み込みそうになった。 しかし、次がある保証なんて全くないのだ。
「・・・このままだと沙里が死ぬんだ」
そう言うと大貴はスッと表情を消した。
―――・・・今回も信じてもらえないのか?
―――できれば大貴を殴りたくない。
―――・・・だから頼む、信じてくれ。
そう願いながら待ってはみたが、少しずつ大貴の顔が赤らむのを見て駄目だと理解した。 そう、逆の立場ならやはり尚斗も不謹慎過ぎる言葉に怒りを燃え上がらせてしまうだろう。
二人は恋のライバルであることからも、沙里に対しての不快な言動は許せないものだ。
「・・・ふざけたことを言うなよ」
「こんな状況でふざけるわけがあるか! 本当だって!!」
「いくら何でも不謹慎過ぎる。 流石に尚斗でもそんなことを言ったら許せないわ」
やはり反応は同じだった。
―――・・・本当は殴りたくないんだけど。
―――ごめん、大貴!
歯を食い縛りそんな大貴の頬をびんたした。
「ッ・・・」
乾いた音が響き渡る。 驚いた顔で大貴はこちらを見ていた。
「・・・これで記憶が戻ったりしないか?」
「・・・どうして俺に手を出した?」
やはり記憶が流れてくるようなことはなかった。
「前にこの館を訪れた時に大貴に言われたんだ。 『もし尚斗がタイムリープのことを話しても信じなかったら俺を殴れ』って」
「そんなこと、俺が言うわけ・・・」
「普段殴らない尚斗が殴ってきたら信じるからって」
「・・・」
しばらく考えた後に大貴は言った。 多少強引ではあるが、殴られたことで少しは信じようと思い始めたのかもしれない。
「・・・そうか。 まだ本気で信じたわけじゃないけど、少しだけなら付き合ってやってもいい。 それで俺は何をしたらいい?」
「信じてくれたのか?」
「万が一の可能性だ。 ほとんど信じていない。 だけど尚斗を疑って沙里が死ぬことになれば俺は生涯後悔する」
「ありがとう。 俺に考えがあるんだ」
一応大貴の協力は取り付けられた。 そうして後は寝るだけとなるまで過ごした。 寝る場所を探す時に、尚斗は二人に提案した。
「今日寝るところなんだけどさ。 広い部屋で三人で一緒に寝ないか?」
「えー? どうして一緒?」
「絶対に何もしないから。 俺と大貴が交代で見張りをしながら眠ろうと思うんだ」
「んー・・・。 まぁ、今は緊急事態だし仕方がないか・・・」
沙里は了承してくれた。 先程と似たような提案ではあるが、尚斗の考えではまるで違う。
―――沙里に不審がられないよう交代で寝ると言ったけど実際は違う。
―――俺たちは二時まで二人で起きているつもりだ。
大貴と目配せをした。 しばらしくて沙里が寝るのを確認し、起こさないよう段取りを打ち合わせる。
「本当に二時に沙里は死ぬんだよな?」
「あぁ。 でも俺たちが起きていたら大丈夫だ」
今は壁際にいる。 時計台も近くにはないし、頭上にシャンデリアのようなものがあるということもない。 沙里を囲い守っている状態だ。
この状況で沙里だけが死ぬなんて有り得ないと尚斗は確信していた。
―――これで完璧な状態。
―――二時までもうすぐだ。
息を潜め態勢を整えていると沙里が急に立ち上がったのだ。
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