覚醒

遠藤良二

覚醒

 ある朝、私は嫌な夢を見た。


激怒する夢と、友達を冷淡な目で見る夢。


すると、


私の右手から炎が出た。


左手からは氷の刃が出てきた。


これは一体どういうこと?


右手は熱いし、左手は冷たい。


それらの手で周りの物を触ってみた。


右手で本を触るとそれに火が点き、左手で水を触ると凍った。


私は魔法使いに覚醒した気分になった。


 私の年齢は15歳。


中学3年生。


受験生。


右手から炎が出たのは、母に強い怒りを感じた時。


左手から氷の刃が出たのは、父に冷酷な気分になった時。


なぜこの現象が起こったのだろう。


これじゃあ、生活出来ない。


どうしたらいいの?


私は自問自答した。


でも、答えは見つからない。


そうだ!


私は両手をまじ合わせてみた。


すると、ジュワッ! という音と共に炎は消え、氷の刃は溶けて無くなった。


私は、気が付くとベッドに横になっていた。


どうやら気絶していたみたい。


炎と氷の刃の話しを両親に打ち明けた。


すると父は、


「俺もお前の年くらいに右手から炎が出たことあるぞ」


と言い、母は、


「わたしも美佳(みか)の年の時、手から氷の刃がでたわよ」


と言っていた。


私は、遺伝かな? と思った。


でも、もし学校に行っている間に出てきたら大変なことになる。


経験上では、「怒り」と「冷淡」な気持ちが強いとそういう現象が発生するのかな? と思っている。


それも両親に伝えると、


「似なくていい所が似るね……。お父さんもお母さんもそれを治すのに苦労したのよ。お金もかかったし」


「そうだったんだ! でも、今は治ってるんでしょ?」


私がそう訊くと、


「まあな。でも、今だに炎が出そうになる時あるぞ」


父が答えた。母は、


「わたしも気持ち次第では、氷の刃が出そうになるよ」


そう教えてくれた。


「気持ちが安定していれば大丈夫だと思うから、今は気持ちのコントロールに気を付けなさい。それとね、こんなこと言いたくないけど、美佳は呪われているの」


「え!?」


私は言葉に詰まった。


「お母さん、それは言わない約束だろ」


「そうだけど……。でも、美佳はとっくにいろんなことを判断できる年齢だし。現実をみないと」


父は黙り込んだ。そして父は


「呪いは、現実的じゃないよ!」


と言い母は、


「わたし達にとっては現実よ!」


と言った。


「それにしたって……美佳に話すにはまだ早いよ! せめて、成人してからがよかったんだよ! 美佳は思春期だ!」


両親の口論が始まった。ああ……嫌だ。いつもは2人共、やさしくて穏やかなのに……。


私は思わず、


「お父さん、お母さん、喧嘩はやめて!」


怒鳴った。


だが、口論は留まることなく更にヒートアップした。


私は我慢出来なくなり、家を出た。


右手から炎が出た。


「わわっ!」


私は両親の口論に腹を立てたから右手から炎が出た。


心の中で必死に怒りを抑えようとした。


怒りはなかなか治まらず、炎は勢いを増した。


周りの目が気になる。


まずい。


治まれ治まれ。


私は何度も深呼吸した。


すると、少しずつ炎が治まってきて、やがて消えた。


「ふー、よかった」


でも、こんなんじゃ学校でムカついた時や、男子にからかわれて冷淡な気持ちになった時に困る。


お母さんは治すのにお金が結構かかる、と言っていた。


私は中学生だからお金なんかない。


小遣いだって月5000円だし。


家に帰ろうかと思ったけれど、両親の口論は収まったかな。


昨日、お母さんから今月分の小遣いをもらったから、おやつとジュース買ってから帰ろうかな。


私はスーパーマーケットでポテトチップスと500mlのお茶を買った。


そうだ! 明弘(あきひろ)と遊ぼうかな。


彼とは幼馴染。


受験勉強もしなくちゃいけないけれど、今は遊びたい。


彼はネットが怖い、という理由でSNSをやっていないのでメールで送った。


[下川君、オッス! 何してた? あそぼー?]


メールは10分くらいで来た。


それまでの間、私は近くの公園のベンチに座っていた。


[おお! いいぞ。今、どこにいる?]


[私の家の近くの公園のベンチに座ってるよ]


[わかった。今から向かうから待っててくれ]


[わかった]


それでメールは終わった。


それから約30分待ったけれど、彼は来ない。


更に約30分時間待ったけれど来ない。


なぜ?


その時、救急車のサイレンが鳴った。


毎日聴くサイレンの音。


この音が後に私を驚かせることになるとは知る由もなかった。


あまりにも遅いので、電話をかけてみた。


だが、出ない。


どうして?


仕方なく私は帰宅することにした。


私との約束をすっぽかす人ではないはずなのに。


 翌日の午後4時頃、私のスマホに電話がかかってきた。


相手は、下川君、と表示されている。


慌ててでた。


すると声の主はおばさんだった。


下川君のお母さんだと思う。


あれ? どうしてお母さんから?


「楓ちゃん? ごめんね、息子と約束してたみたいなのにいけなくなってしまって」


「はあ、下川君、どうかしたんですか?」


そう訊くと、嗚咽を漏らすのが聴こえてきた。


「どうしたんですか?」


「ごめんね……。息子ね、交通事故に巻き込まれて昨日の夜、息を引き取ったの……」


「えっ! そうなんですか?」


私は驚嘆した。


「もし、できればでいいんだけど、落ち着いたらでいいから、位牌になってしまった息子に会いにきてくれないかしら?」


「行きます、 是非、手を合わせにいきたいです……」


「ごめんね……」


そう言って電話をきった。


そんな……彼が……下川君が……。


私は、目に涙が溢れてきた。


あの救急車のサイレンは下川君が搬送された時のものだったのかな。


下川君に私の悩みを聞いて欲しかった。


もう2度と会えない彼を思い出しては私は泣いていた。




 気付いたら、私は雲の上にいた。


え? 雲って乗れるの? 初体験。


傍に下川君がいて、声を掛けられた。


「よく来たね」と。


「下川君、ここはどこ?」


「ここはね、天国だよ」


「え? そうなの?」


下川君は上下白い服装で私の前にいる。


「私、死んじゃったの?」


「きっと、幽体離脱かもしれない。だから、自分の体に戻った方がいいよ。あんまり長く肉体から離れていると戻れなくなるから」


「そうなんだ、わかった。ちょっとね、聞いて欲しいことがあるんだけど」


私は、感情に寄って炎や氷の刃が出てきて困っている旨の話をした。


「そうなんだ。それはね、僕も経験あるよ」


「えっ! 本当? 治った?」


「治る前にしんじゃった」


下川君は笑いながらいった。


笑いごとじゃないのに、そう思い私は笑えなかった。


下川君は、こう言った。


「治るまで、お祓いに行くといいよ。僕もお祓い受けていて少し良くなったよ」


私は、


「そうなんだ! 親に言ってみる。きっと、お布施とか必要なんでしょ?」


下川君は、


「そうだね。確かにお金はかかるね。そろそろ、身体に戻った方がいいと思うよ」


と言った。


私は、


「わかった。また、会えるかな?」


言うと、彼は、


「どうだろ? それはわからないなぁ」


と、言った。


「僕のことを強く念じて、幽体離脱すれば、もしかしたら会えるかも」


「幽体離脱って……。何か怖い……」


私はそう言った。


「まあ、そうだろうね。怖いよね。お盆になったら僕の実家に来て、仏壇に向かって拝んでくれるだけでも嬉しいからそれでいいよ」


「わかった。ところで、どうやって自分の体に戻れるの?」


私がそう訊くと、


「ここで眠っていれば自然と戻れるよ」


教えてくれた。


「わかった」




 私は自分の体に戻ったようで、ベッドに横になっていた体は動く。


日常が戻ってきた。


ただ、親に話してお祓いしてもらわないと。


いくらかかるんだろう。


でも、両親も私と同じような感じだったらしいからわかってくれると思うけれど。


翌日、私は学校を休み母と神社にお祓いに行った。


私は良くなることを切に願った。


平凡な日常を取り戻すために。


                               (終)




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