第109話 封印されしダンジョン

 初代勇者の文献によると、目的のダンジョンへはソリッド旧坑道を抜けてから北西に歩いて三日で辿り着いたと書いてある。


 問題は初代勇者がどの程度の速さで移動していたか分からないことだ。当時勇者の仲間として行動していた女王にも話を聞く。


『なんですか? というか、本当にこれで会話出来るのですね』


 女王には、クリスタルの形をしたタニアの分身を渡しておいた。これで何時でも会話が出来る。


「はい、凄いでしょう?

 早速ですが、一つ聞きたいことがあるんですがいいでしょうか?」


『なんでしょうか?』


「今、ソリッド旧坑道を抜けて北の魔王国領側に来たんですが、目的のダンジョンまでどのくらいの速さで移動していましたか?」


『なぜ、それを私に聞くのですか?』


「昔、ご一緒に旅をしていたと聞きました。

 なので、実は一緒にダンジョンに行ったのではないかと思いまして」


『良く存じてますね。まぁ、私を詳しく知っているものは皆知っている話ですがね。

 そうですね、あの時は一番足の遅いドワーフに合わせて移動していましたから、一日40kmというところでしょうか』


「そんなに?! 流石勇者のパーティですね。

 馬車の数倍は早いじゃないですか」


『当時は人類最強のパーティと言われておりましたからね。そんな私たちですら、貴方ほどではありませんでしたが......』


「なんか、すみません」


 とりあえず、距離にして120kmくらいだと分かった。流石に一日でそんな距離を高速で移動したら、ミィヤが倒れてしまうので同じくらいのペースで移動しよう。


 それでもかなりキツいと思うので、途中はおぶって行くしかあるまい。

 それだけ急いでも往復の移動だけで一週間以上かかる。これは思ったより余裕がないな。


「目的のダンジョンは、どのくらい深いのですか?」


『あの時は最下層までは辿り着きませんでした。

 それでも、地下25階までは行ったと思います』


 目的のアーティファクトがあったのは地下25階。

 同じ物があればいいが、無いかもしれない。

 そうなった場合は、更に潜らないといけないだろう。


 ちなみに以前に勇者たちが手に入れたアーティファクトは、今の王様が持っている。

 貸してくれるわけがないし、彼にとっても切り札になる。絶対に手放すわけが無い。


 なので、俺たちは新しいアーティファクトを手に入れないといけないのだ。


 それとは別に、ダンジョンコアを手に入れないといけない。

 あまりに深いなら別のダンジョンを探した方が効率がいいので諦めることになるが、せっかく行くのだから、最奥が分かるくらいまでは潜っておきたいな。


「ありがとうございました、ではまた連絡しますね」


『はい。どうかご無事で』


 そこでプツッと通話が切れた。さて、ここからはなるべく早く移動しないとだな。

 まずは暗くなる前に、40km地点まで目指そう。


 女王からも情報が聞けたし、朝ご飯にしよう。

 今日は白パンと焼いたベーコンと卵焼きだ。昨日のヴィヴィアン肉のピリ辛スープも一緒に頂いた。これは昨日の夕飯の残りだな。

 といっても、調理はすべてダンジョンにある村の人が作ってくれているので、常に温かい状態でいただける。本当にありがたいことだ。


 腹ごしらえも済ませ、元気いっぱいだ。これなら昼まで走って移動出来るな。

 そう考えて、暫らく走っていたら。


「リューマ。おんぶ」


 と両手を差し出されたので、仕方なくミィヤを背負って走り出した。

 背中に心地よい温かさを感じながら、タニアのナビに従い、猛ダッシュで森を抜けていく。

 木や岩などの障害物を躱すのも、次第に慣れて自然と出来るようになった。


 タニアが索敵して魔獣の位置を把握しているので、適度に獲物を倒したながら進んでいく。

 狩りに出るよりも、肉が溜まっていくな。まだ収入源が乏しいし、村の食料にも限りがある。こうして、少しでも食料を確保しておきたい。


 余った皮や、骨など材料となるものは交易が再開出来ていないので換金出来ていなかったが、それも女王との交渉により、少しづつだが換金が可能になりつつある。


 村長にはタニアより話をしてもらい、交易の為に人員を選別してもらった。

 基本、輸送する必要が無いので人を送るだけでいいのがうちの村の利点だ。


 ダンジョンコアを持っている俺たちだからこそ出来る芸当だ。マリウスみたいに地位もお金もある人物にはありがたみは薄いかもしれないが、俺にとってはどの財宝よりも価値があるように思える。


「女王と取引しておいて良かった」


「少しずつ、財源が増えていますね。

 ケーキも販売が始まりましたし、アビスのダンジョンも整備が進んでいます。

 もう少ししたら、新しい設備も整いますのでより収入が増えそうですね」


「ああ、村の復興資金もこれで確保出来そうだな。

 早く色んな問題を解決して、ミィヤとゆっくりとした生活をしたいよ」


「そうね。早く、リューマの子供が欲しい。

 リューマは何人がいい?」


「うえっ?! っとあぶねっ!!」


 ミィヤの言葉に動揺して、危うく木にぶつかりそうになった。本心からそう思っているらしく、ミィヤの顔は真剣そのものだ。

 ここで誤魔化すのも問題だよな。


「そうだな、自然に任せるさ。

 ミィヤとの子供なら、何人いても構わないさ」


「ん、そう。

 じゃあ、帰ったらいっぱい作ろうね!」


「お、おう」


 そんな他愛もない話をしつつも、俺たちはどんどん先に進むのだった。


──その頃。


「グリナード様、西のソリッド旧坑道を抜けたものが現れたようです」


「なんですって? あそこを抜けれる人間なんて、マリウスくらいじゃない?

 あいつから何か連絡あったの?」


「いいえ、ワルダーユ王からも行方不明になっているとしか……」


「それなら、尚更あいつの可能性が高いわね。

 新しく召喚された異世界人たちはまだ育っていないみたいだし、あそこを抜けるなら大勢出てきているはず。

 動きはまだ無いのでしょう?」


「はっ、その通りです。

 毎日、王城で訓練しているらしいです」


「ふーん。あいつ、今度は何を企んでいるのかしら?

 もしかして、あのダンジョンに潜るつもりかな?

 だとしたら、ちょっと厄介だわね。

 よし、ダンジョンに刺客を送りなさい」


「かしこまりました。では、早速手配します」


 グリナードは指を頬に当てて、考え込む。

 前にもマリウスという人間は、自分に挑戦してきたことがある。

 あの時はまだ勇者を名乗っていたが、それほど強くはなかった。


退屈しのぎにはなったし、殺しはしなかったが、あれからかなり強くなったと聞いている。

 もしまた戦いになるなら、前よりも楽しめるだろうなと口元を歪めるのだった。


「さーて、どんな面白いことしてくれるのかしらね?」 


 流石の魔王でも、ソリッド旧坑道を抜けたのがマリウスではなく、リューマという無名のオジサンだとは考えもしなかったのだった。

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