第65話 暗殺者の意地
「掛かりましたね」
さっき迄、前に居たはずなのに後ろから攻撃してきた?そう、驚いていると今度は右前からザカールの右腕が出てくる。
俺の反応速度では躱しきれず、またしても攻撃を受けてしまう。
その時、ドクンと血管が波打つ感覚がする。なんだこれ?
「警告。マスター、毒攻撃です。精霊魔法『浄化の風』の発動を推奨します」
「分かった、『浄化の風』!」
辺りに心地よい風が吹き、爽やかな気分になる。これ、寝る前にも使いたいかも。
よし、呑気なことを言える余裕はあるな俺。
しかし、流石暗殺者なだけあるな。ステータスの差なんか関係ないよ。マジでやばい。
さっきから見えない所から攻撃来るし、こっちの攻撃も当たっているのに動きが鈍らない。
「なるほど、精霊魔法ですか。
なかなか面倒臭いものをお持ちですね」
ヒュンヒュンヒュンッ!と手裏剣を投げてくる。
って、本当に忍者だったのか?
当然、毒が塗ってあるんだろうな。
いくら素早くても、全てを躱すのは俺だけじゃ無理だ。
(マスター、右後方から来ます!)
「くっそ、死角からばっかり狙いやがって!!」
「ちっ、精霊の加護でも授かったのですか?
しかし、これならどうですかね?」
気がつくと空から無数に魔法が降り注ぐ。
暗黒魔法か?
(──マスター、回避不能です。しかし、マスターならダメージ量は問題ありません)
そうか、スキル効果で大したダメージは食らわないんだった。それなら、このまま突っ切る!
背中に10回くらい魔法が当たったが、ダメージは500程度。俺の高いステータスを突破してダメージ与えるだけでも結構凄いが、それが無数に放たれているのは驚異だ。いくら俺でも、流石に何度も受けれないな。
「あれだけ当たって、死なない?!」
「死なないけど、きっちり痛いからなっ!」
ザカールの言う通り、ステータスだけの素人の俺では手加減して勝てる相手じゃなさそうだ。
だから、ここからは遠慮なくいくぞっ!
(マスター、では石をスキル『
あー、なるほどな。威力は落ちるが、必ず当たるか。それなら大槌で当てにいくよりは、確率高そうだな。早速やってみようか。
「(さぁーて、ついでにあいつの周りでウロチョロしている奴らもやってしまうか。頼むから、死んでくれるなよ?)」
小指程の小さな石を握りしめて、スキルを実行しつつ投げた。すぐに50個に増えて辺りに散らばっていく。バララララッと音が広がり広範囲に散らばったのが分かる。
「ぐあっ」
「げううっ」
やはり、ステータスも戦闘センスもザカールに劣るらしく、今の一撃で戦闘不能になったようだ。
かなり血が流れているけど、敵の心配している場合じゃない。
「なんだ、今の技は?スキル効果か?
……くそっ、掠ったか」
腕から血が流れているみたいだな。
自分が広範囲攻撃した後に、自分が同じことをされるとは思わないだろう。
タニアの提案に、乗ってよかったな。これなら爆散させることは無さそうだ。
すぐに何かを傷に塗り込んでいたのが見えた。あれは傷薬か?回復魔法は持ってなかったし、意外と回復魔法使いは少ないのか?
(回復魔法は精霊魔法か、神聖魔法でしか使えません、マスター)
そうなのか、教えてくれてありがとうな。タニアは色々教えてくれるから有難いな。
よし、次で決めるぞ!
「これで終わりだ!……スキル『
「やはり、別のスキルですかっ!
だが、同じ手が通じると思わないで欲しいですね!黒き風よ、撃ち落とせ!」
俺がスキルで増やしてばら蒔いた小石に暗黒魔法で迎撃してくるザカール。更に、そのまま正面から
短剣を突き出してきた。
しかし、俺もそれが見えている。だから俺も片手で大槌の柄を持ち、カウンター気味に突き出した。
「……甘いですね」
その瞬間、フワッとザカールが消えた。
瞬間、後ろから嫌な気配を感じた。
「しまった、暗殺剣かっ?!
……なーんて、ねっ!」
「?!」
瞬時に両手で大槌を持ち体を思いっきり捻る。遠心力により高速回転した勢いのまま、ミスリルで出来た槌で背後から攻撃してきたザカールの腹を殴りつけた。
「がはぁっっっっ!?」
ドゴオオオンと大きな音を立てて、ザカールが吹き飛び近くにあった家を破壊しつつ瓦礫に埋もれる。
「やべ、飛ばしすぎた」
急いでザカールが吹き飛んだ方に駆け出した。
直撃したし、動けるとは思えないけど万が一逃げられたら厄介だ。
何処にいるかはタニアが追跡しているので把握している。だから、すぐにザカールを見つけることが出来た。
「やばいな、後で村の人に怒られそうだ」
ザカールが吹き飛んださきの家は見事に崩れてしまい、建て直しが必要な状態だ。これは後で立て直すのを手伝わないとだな。
瓦礫にはザカールらしき男の足が見えた。上半身は埋まっていてよく見えないな。
ピクリとも動かないのを見ると気を失ったか、もしくは死んだかだな。
この手の職業の人間だから、幾人もの人を殺めてきたと思う。だから、死んでしまっても仕方ないだろう。だけど俺がこの手で殺したとなると、かなりの罪悪感が残る。まだ日本からこの世界に転生させられて一か月くらい。その程度の期間で価値観が変わるわけがない。
出来るなら、気を失っている程度なら嬉しいのだけど。
ガラガラとザカールの上に積もった瓦礫を取り払っていく。こういうときは、ステータスが勝手に働いてくれるので助かるよな。重さの感覚でいうと、発泡スチロールくらいにしか感じない。とっても軽いです。
ポイポイ木材を投げ捨て、ザカールを掘り出した。
見ると腹のあたりが陥没して、黒い布越しからも分かるほど出血していた。
……息はしていない。やはり、死んでしまったか。
じくじくする気持ちを抑えて、目の前の男に手を合わせる。
「次に生まれるときは、真っ当な仕事に付けるといいな」
その時、急にタニアが慌てた声をあげる。
「マスター、死んでません!
この男、『隠蔽』スキルを使っています!!」
「えっ?!」
俺の腹に深く突き刺さる黒塗りのナイフ。どうみても、暗殺用だよねこれ。
そして急に視界がぼやけて、頭がクラクラしてきた。
「くく、LV40の魔獣ですら即死する毒です。
せめて、貴方も道連れにしますよ……ごほっごはっ」
血を吐き、決死の表情で握り締めるナイフに力をいれるザカール。俺の腹からも血が滴り落ちていく。
やばい、このままじゃ死ぬかも。
いや、死ぬわけにいかない!!
「どうりゃああああっ」
拳に渾身の力を籠めて、ザカールを殴って瓦礫の外へ吹き飛ばした。黒塗りのナイフはカランとその場に転がる。
ああ、今度こそ殺ってしまったかな……。
今はそれどころじゃないな。この毒をどうにかしないと。
やべ、意識が遠くなってきたぞ。
「マスターのHPの急激な変化を検知。かなり危険な状態です。
──────ますか?」
「……?ごめん、よく聞こえないや」
俺の意識はそこで途絶えたのだった。
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