第46話 スキルの真価
魔法を見た瞬間に、俺の頭はめちゃくちゃ冴えていた。
もしかしたら走馬灯でも走っているかと思うくらい、周りの景色がスローになっていた。
そしてその中で考えたんだ。
能力が互角であれば、あの魔法もかなりのダメージを受けるに違いない。
そうじゃないかもしれないけど、試すことは出来ない状況だ。
かといって、魔法を防ぐスキルなんてもってないからどうしようかな。
タイマンしているから、スキル『
下手したら、相手のステータスを上げるかもしれないし。
確実にダメージを減らす方法は無いのか?
……ん、スキル?
そうだ、なんでも50にするスキルが俺にはあるじゃないか。
だったら、相手のステータスを50に……、いや無理だ。それは出来なかったはずだ。
ミィヤのレベルを50に上げてしまおうと、試したが見事に失敗した。あれは自分だけにしか有効じゃないみたい。
そうだとしたら、ステータスを変更するのも当然無理だろうな。
それなら、俺に対しての攻撃ならどうだ?
熱の影響は50%に下げれたんだし、可能なんじゃないか?
ああ、50%に下げてもそもそものダメージが大きいかもしれない。それではあまり意味がない。
何度も食らえば結局は俺が負ける。
……あ、そうか!
俺に対するダメージを固定しちゃえばいいんだ!
よし決まりだな、これなら上手くいくはず!
ダメだったら、ステータスさん頑張って魔法を耐えてくれ!!
そして、俺はスキル『
【スキル『
ん? 出来た!!?
というか、上限を固定か。なるほど、スキルさん賢いな。
これで魔法ダメージがほとんど効かなくなったぜ!
「グハッ……、我ノ肉体二ダメージヲ与エルダト?! ダガ、貴様トテ無事デハアルマイ!!」
「ん? 全然効いてないぜ? さぁ、もう一丁くらえっ!」
横に流れた黒斧を回転しつつ、今度は縦の軌道に持ってくる。そしてそのまま、脳天から渾身を込めて振り下ろした。
ズドンッッ!!と轟音を立てながらアークデーモンが真っ二つになる。勢い余って、床に大きな亀裂が入った。
更に手を緩めず、黒斧をもう一度横に薙ぐ。
体を十字に切られたアークデーモンは、そこでHPが尽きたように爆散して灰となった。
後には、黒い火の玉がふよふよと浮いている。
『バカナ、人間如キに負ケルナド……、魔王様申シ訳ゴザイマセン……、次コソハ……』
黒い火の玉に成り果てたアークデーモンだったが、そこから必死に空を泳ぐように逃げ出した。
その様は、祭りでよく見る金魚すくいのデメキンみたいだ。
「そのまま逃がしはしません!!」
いつの間にか、治療が終わってこちらを観ていた瞳月が弓を構えていた。
それに合わせるように、星香も弓を構えている。
二人は視線を合わせてから頷くと、「やっー!!」と声を上げて同時に矢を放った。
二人が放った矢は螺旋を描き、光輝いた。
まるでそこに太陽が上がったかの如く、辺りが明るくなった。
『ク、来ルナァァァッ!!』
光を放つ二本の矢は、同時に黒い火の玉を射抜いた。と、同時に更に強く輝き弾けた。
『コ、コンナハズデハァァァ……』
今度こそ完全に消え去ったのだった。
今まで、部屋の中に充満していた黒いもやも次第に消えていく。
すると、奥の方がハッキリと見えるようになった。
「良くやったな、瞳月、星香。まさか、悪魔の魂を矢で倒せるとは思わなかったよ」
アークデーモンの口振りでは、あのままにしていたらどこかで復活していたんだろうな。
それを二人が矢で倒したおかけで、未然に防げたわけだ。
「いえ、川西さんが倒してくれなければ、アークデーモンを倒すどころか傷を負わせるなど出来なかったですわ」
「そうね、私達も坂本君達と同じ運命を辿っていたでしょう」
まるで坂本達が死んだかのように言ってるけど、まだ生きてるよ?
明日香が踊ってくれたからね。何気に汗だくになってるし、息上がっているから重症だったみたいだな。お疲れ様だよ。
しかし、これがゲームならバランス崩壊しているな。序盤でいきなりボスに会うようなもんだ。
勇者としてまともなスキルを授かった子達が、歯が立たない相手とかクソゲーだろ。
いつも現実は厳しい。
「ねね、オッチャン何か落ちてるよ」
「お、これはオーブ的な何かか?」
鈴香に言われて落ちている物を拾う。
拳大の大きな黒い玉だ。これが透明なら占いに最適な大きさだろうな。
持った黒のオーブを何となく掲げてみる。
すると、オーブは淡く光だし部屋の奥を照らしだした。
まるで今部屋を作っていたかのように、壁が途中までで終わっている。
「もしかして、ダンジョンを作っていたのかな」
「そんな感じだな。だとすると、やはりアークデーモンがここのダンジョンの主ってことであってそうだ」
「ということは?」
「これでダンジョンクリアだねっ!!」
最後は鈴香にセリフを取られてしまったな。
しかし、これでシドンからの依頼もクリアだ。大手を振って帰れるってもんだな。
「くそ、お前なんか来なくても俺らだけでクリア出来たんだ!」
坂本もようやく意識を取り戻したみたいだな。
開口一番に憎まれ口を叩けるなら、大丈夫そうだな。他の子達も、目を覚ましたみたいだ。
辺りを見渡し、俺達以外に誰もいないのを確認すると……。
「やったっ! 助かったぞ!」
「彩堂と児玉が助けてくれたのか!? ありがとう、二人は命の恩人だよ!」
藤村と武藤は両手を上げて喜んでいた。
多分坂本の甘い誘いに乗ってきたんだろうけど、痛い目にあったのだし暫くは大人しくして欲しいもんだ。
「ねえ、私達もいるんだけど?」
「そうよ、嘘言って騙したこと忘れてない?」
「げっ、お前達もいたのかっ」
瞳月と明日香が目に入ってなかったのか、須崎は二人を見て額からアセをダラダラと流している。
坂本と共謀した張本人の一人だからな。
二、三発は殴られても文句は言えない。
「ごめん、俺は止めたけど坂本がさ……」
「今更、言い訳はいらないですわよ?
あとで、響子先生には報告しますし、しっかりと絞って貰いますからね?」
「うぐっ」
須崎は坂本とつるんでいるが、響子ちゃんに逆らえるほど気が強くはないみたいだな。
さて、問題は坂本か。
「な、なんだよお前ら! 俺の話にノリノリだったじゃねーか! いざとなったら裏切るのかよ」
「お前が上手くやれば、女子が喜んでついてくるって言ってたんじゃないか! それなのに女子がついてくるどころか、こんな所で死にかけてちゃ割にあわねーよ」
しまいには内輪揉めを始める男子四人。
やっぱ男だけで集まると録な事を考えないよなぁ。
とりあえず、懲りてもらうにはコレが一番かな。
「なぁ、坂本」
「な、なんだよ用務員! 俺に文句あるのかっ!」
「ありありだね。俺は追い出されてから、ノンビリ過ごしたかったんだよ。それがお前が騒ぐせいで余計なことに巻き込まれたんだ」
「はんっ、おかげで冴えないオッサンが女子に囲まれる生活が出来てるんだろ? 感謝して欲しいもんだぜ!」
うーん。やっぱり反省をする気はないなコイツ。
じゃあ、やっぱりお仕置は必要だね!
「何が感謝だ! お前のせいでいらん苦労を女子達がする羽目になっているんだぞ?
少しは、反省しろっ、ガキンチョが!!」
勇者ということで、人差し指だぞ!
バチコーーーンッ!!!
「うぎゃべっっっっ?!!」
そして一人の男子高校生は壁まで吹き飛び、再び戦闘不能になるのだった。
「あーあ、オッチャンを怒らせるなんて本当に坂本っておバカさんなんだから!」
坂本がこの日の最後に聞いた言葉はその一言だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます