クラス転生に巻き込まれた俺だけオジサンなんだが ~用務員の俺はユニークスキル『平均』と『50』で生き抜きます~

琥宮 千孝(くみや ちたか)

そりゃないよ編

第1話 俺だけオジサンとか、そりゃ無いよ!

 いつも通りの朝、いつも通りの仕事、いつも通りに1日が終わるはずだった。


 なのに、ここは一体どこなんだっ!?


 目の前に広がる気色は映画で見たような世界のように色鮮やかで、俺の知るどこの国とも違う。

 まぁ、海外の景色なんてテレビでしか見たこと無いけど。


 でも、あまりに色彩が違う。


 淡いピンクの葉が生い茂り、7色の花が咲いている。

 そして、その下部には大きな口がこちらを狙ってい…る?

 やばいやばい!

 危なかった、食われるところだった。


 まずは落ち着こう。

 俺はなんでこんな所にいるんだ?


 ───


 俺は生まれてこのかた、自慢できる特技というものが無かった。

 何をやっても平均点。

 国語、社会、理科、数学、英語の全てもれなく平均点なのだ。

 しかも、基本教科だけではなく、家庭科や体育や音楽まで全てだ。


 勿論通知表の評価は、点数だけで決まらないのでまちまちになるが、平均点ということは、偏差値は50という判定になる。

 なので、すべての教科でも総合評価でも偏差値50という事だ。


 そんな俺にお調子者のクラスメイトが付けたあだ名は『ミスター50フィフティ』だ。

 うん、今思い出してもダサい。


 しかし残酷かな、この世のあだ名とはダサいほど定着するのだ。

 フィフティ、フィフティ言われ続けた高校生時代を思い出すと目から汗が流れる。


 そんな俺だったが、何とか大学へと進学し一般企業へ就職するも、持ち前の平均点しか取れない能力の為に会社をクビになってしまう。


 そのあと俺が再就職した先が、とある私立学校の用務員だった。

 いや、本当は教員免許をギリギリ持っていたので臨時講師になろうとしのだが、見事に試験に落ちてしまったところを、校長が見兼ねてちょうど空きができた用務員でならと声を掛けてくれたのだ。

 本当に有難い。


 そんな事があり、とある私立高校の用務員になって早くも10年。

 やってみると居心地が良く、もともと贅沢もしないため、安月給ではあるが生活に不自由しない。


 お陰で結婚すら出来なかったが、それもまた人生だ、不満はない。

 そんな平凡な生活をし続けて、最後は静かに死ぬんだろうと思っていた。


 勤務先である私立高校は、優秀な生徒もいるがヤンチャな生徒も多数いる。

 札が抜かれた財布や、誰かが探していたスマホや、はたまた誰がこんなん持ってくるんだっていうものが落とし物で届くものだ。


 最初は職員室に届けられていたが、俺が勤務してからは何故か俺が落とし物を管理する羽目になった。

 多分、生徒間のトラブルに巻き込まれたくない教師達が雑務をなんでもこなす俺に押し付けたのだろう。


 そんな訳で、俺が持ち主が判明したものは教室に届けるというのが日課になっている。

 おかげで生徒には名前と顔が知れ渡り、しょっしちゅうイジられるのだが、もう慣れたもんだ。

 俺も気安く生徒と話す事が出来るようになったし、悪いことばかりでは無いけどね。


 そんないつもの通り落とし物を届けるだけの筈だったのに……。


 2-Aの教室に着いた時だった。

 ガラッと扉を開けた瞬間に、目を閉じる程の光に包まれ強烈な衝撃を全身に受け、そして気を失ったのだ。


『さぁ、────────だよ』


 誰かに話し掛けられた気がして目を覚ますと、そこは見た事も無い石造りの建物の中であった。

 見渡すと、見知った生徒達と担任の教師が騒いでいる。


「ここ、何処だよ!」


「なんで俺たち閉じ込められているんだ!」


「お家に帰してよー!」


「み、みんな落ち着いて~!」


 出口と思われる場所は、まるで牢屋の扉になっていて俺達は何者かに投獄でもされたように思われる。

 一体何が起こったのだというのか。


 程なくして、扉の向こう側からガチャガチャと音が聞こえる。

 出れると思ったのか、1人の少年がトビラが開く瞬間を狙って飛び出そうとした。

 だがしかし、吹き飛ばされて戻ってきた。

 辺りには悲鳴が木霊する。

 もはや収拾がつかない状態だ。


 というか、倒れたところから血が流れているのが見えたけど、超痛そうだな。

 あれ大丈夫か?


「静まれい!」


 平和な日本では聞いた事の無い怒声に近い声が響き渡る。

 その出で立ちも異様だ。

 なんせ、何かの物語にでも出てきそうな鎧を纏っている。腰には誰が見ても分かるように剣がぶら下がっている。

 それで恐怖を感じたのか、そのたった一言で皆が押し黙る。


「貴様たちはこれから我が国の王に謁見する。

 無用に騒ぎ立てれば、その者よりも酷い目に合うと思え!

 理解したなら、黙って付いてこい!」


 先程の男子生徒は、怪しいローブを着た人に連れていかれた。

 ボソッと「治療はしますので…」と呟きながら男子生徒を抱えて先に消えていった。


 連れ去られた生徒、確かトシヤとか呼ばれてたかな。

 彼以外は大人しく鎧男に着いていく。

 皆、自分の身は大事だからな。

 もちろん俺も大人しく後ろからついて行った。


 何度か扉を抜け、階段を登ると綺麗なフロアに出る。

 そこが王宮だと気がつくのに時間は掛からなかった。

そこかしこに王族らしき肖像画が飾られており、またあちこちに先頭を歩く鎧男に似た格好の兵士らしき者達が立っていたからだ。

 みな当然武器を持っている。


さらに上に上がり、広いロビーを抜けると大きな扉が開かれた。

 その先に大勢の人が居るのが分かった。

 みな西洋時代の貴族のような格好をしている。


 なんかこういうの見た覚えがあるな。

 そうだ友人の一人がやたら勧めてきたアニメだったか?

 実際見てみると面白かったわけだが、あの時の主人公達はもっと歓迎されていて、かつ丁重に扱われていたと思うんだ。


 手錠や枷等こそされていないが、なんというか、まるで囚われた敵国の捕虜の扱いだ。

 既に不安しかないんだが。


 中に入ると、全員が跪かされた。


「良くぞ参った、異国の者達よ。

 我はこの国の王、ワルダーユ四世だ。

 この国が未曾有の危機に晒された故、そなた達を召還した。

 この国のため、我の為にその命を賭けて救うが良い」


 そんな勝手な事を宣ったあとに、「後は任せたぞ」とだけ残して直ぐに立ち去った。


「な、な、な、なんなんですかっ!!

 ここは一体どこなんですか!?

 勝手なことばかり言って、私達に何をさせる気なんです!?」


 普段なら温厚で取り乱す所など見た事がないからとても珍しい。


 彼女は担任の鈴木響子先生。担当教科は音楽だ。

 私は絶対音感があるのよ!と言うのが彼女の自慢らしい。何度かコンクールで賞を獲ったこともあるらしい。


 なんで詳しいのかというと、大学生時代に好きだった後輩に似ている可愛い人だからである。

 今一瞬キモイとか聞こえた気がするが、幻聴に違いない。


 さて、そんな事を考えていたら豪華な装飾をあしらったローブ着た若い男が前に進み出てきた。


「代わりに私が説明致しましょう、勇者様方」


「勇者?」


「そうです。

 この国に伝わる伝承で、厄災に見舞われし時、時の違う異国より若き勇者達が召還され国を救うだろう、と。

 伝承の通り儀式を行った所、あなた達が現れたというわけです」


 …若き勇者かぁ、って、ええええっ!?


「あ、あの…」


 勇気を持って聞こうとしたが、遮られてしまう。


「だからね、なんでここにくたびれたオジサンがいるのかなって話なんだよね。

 召還されるのは、まだ穢れを知らない少年少女の筈なんだけどなぁ」


 そう言われて周りを見てみる。

 30人の生徒に、若い教師が一人。

 そして、場違いにも程があるオジサンが一人。


 そう、オジサンなのは俺だけである。


 俺だけオジサンとか、そりゃ無いよ!


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