目を開くと、何故だか電車の中だった。

 とはいえいつも乗っているような電車ではなく、席の左には灰皿がつけられている。

 自分は向かい合った座席の片側に座らされていて、正面には窓から外を眺める仮面をつけた和服の誰かが座っていた。

「ああ、勝手に相席してて悪いね」

 そいつはこちらへ一度向き直って微笑むと、また窓の外を眺め始めた。

 気になって自分もそちらは向いていると、窓はスクリーンのように映像を映していた。

「別に答えなくていいけど、君はなんで死んだのかな」

 そいつはこちらを向かない。ただ窓に映された光景を眺めてそう言った。

 窓に映るのは、見慣れた光景。いつも通っていた学校の教室の中。

 暗い顔をした担任の教師に、生徒のほうは何やら騒がしい。

「みんな動揺してるね。素材が何であれ流石は死の効力ってとこかな」

 そしたらまた窓の景色が切り替わる。今度は自分の家の中だ。

 泣き崩れる母親と、見たこともない顔をした父親。弟は案外平気そうな顔をしている。

「これは君にとっても予想通りだろ、なあ」

 楽しげなこいつの心境がわからないが、とにかく罪悪感が襲ってくる。

 しかし、死んでしまったのだから関係ないという妙な解放感も同時に存在した。

 また映像が切り替わる。

 今度は次の日の学校みたいだ。

 担任の先生は今日は学校に来ていないらしい。クラスメイトの様子はもういつもとさして変わりない。

「意外だろうね。でもまあ友達のいない君が死んでも誰も変わらないのは当たり前だよ。みんな身近な死に興味を持っただけだ」

 映像が切り替わる。

 一気に日が進んで葬式のようだ。

 訪れる人々の表情は皆一様に暗い。

 映像が切り替わる。

 朝の学校に自分のいた席はなく、笑顔の張り付いた生徒や担任の顔が見える。

 自宅では母親が慌ただしく家事を、父親は部屋で仕事をしていて、リビングには弟が友達を呼んで遊んでいる。

 映像が途切れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る