第40話 つかみかけた糸

『小林さーん。すいませーん』


 松本は施設の元責任者だった男の家を訪れていた。


 チャイムをしつこく鳴らし、その男の名前を呼ぶと中から声がした。


『どちらさんですか?』


『あ、西成署の者で松本言います。小林信二さんにお話をうかがいたいんですけど』


『西成署?…え?警察?』


 突然の訪問に焦った様子でドアを開けた。見た目50代の真面目そうな男だ。少なくとも悪そうな男の身なりには見えない。


『なんです?』


 不審そうに松本を見ている。


『小林さん。あなた何年か前まで児童福祉施設で責任者しとりましたよね?その時の話を少し聞かせてほしいんですけど』


 小林は明らかにうろたえた顔をした。松本はそれを見逃さなかった。


『疎井冬さん、ご存知ですよね?』


 松本が追い討ちをかけると核心を突かれた顔をした?


(こいつは思った通りや。この男は何かを知っとる。)


『知ってたらなんなんです?』


『あ、いえ、疎井さんがどういう子やったとか、当時のことを聞かせてほしかったんですけどね』


『そういうことなら力になれません。何せもう何年も前のことですので、あまり覚えてませんから』


『赤ちゃんの頃からずっと一緒やったのにですか?』


『見ていた子供もあの子だけではないですから』


(この男…)


 小林はとことんシラを切るつもりらしい。松本は切り崩しにかかった。


『疎井冬さんがよく痣を作っていたことは知っていますね?』


『もう帰って下さい』


 ドアを勝手に閉めようとしたが松本は足を挟んでそれを止めた。


『あなたが疎井冬に周りの子と喋らせないようにさせてたのは分かってるんですよ。…ついでに、あなたが疎井にしていたこともね』


 そこまで言われて小林はとうとう追いつめられた犯罪者の顔になった。


『実は疎井冬がある事件に関わっている可能性があることから彼女の素性について調べとるんです。あなたの知っていることを全て喋ってくれるならあなたのことは黙っておくこともできますがどうしますか?』


 小林は肩を落としうなだれてしまった。


 もちろん松本に黙っておくつもりなど微塵もない。

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