第33話 龍玖の出所
愛羽たちは玲璃の切符事件をネタにして当分の間みんなで腹を抱えて大笑いしていた。玲璃は機嫌が悪かったが、悔しいながらも今回ばかりは言い返せずにいた。
『…そういや愛羽、本当に兄ちゃん迎え行かなくてよかったのか?』
今日、愛羽の兄暁龍玖がついに少年刑務所から釈放され帰ってくるのだが愛羽はその迎えに行かないことにしたのだ。
『うん。ちゃんとお願いしといたからいいの』
『お願いって、誰にだよ』
みんな首を傾げた。
『え?伴さんに』
『伴さんに?どういうこと?』
みんな今度は反対側に首を傾げた。
『あ!そっか、みんな知らないんだっけ。お兄ちゃんと伴さんって知り合いだったんだよ。あたしもビックリしたんだけど、伴さんの初恋の人がウチのお兄ちゃんらしくて』
『はぁ!?』
『マジかよ!』
『何その運命的な出会い!』
如月伴は愛羽たちの通う夜明ヶ丘高校の3年で小田原の暴走族夜叉猫の総長なのだが、彼女がまだ中学生の時、車で集会に連れていくという口実でナンパされ伴はまんまと1人でついていってしまい、その後男3人に
だが龍玖は間もなく愛羽を守る為、暴走族をやめ家を出て愛羽と2人で暮らしていくことを選んだ。そしてやっと生活が落ち着いてきた矢先、自分がチームを抜けてから起きてしまったある事件で逮捕されてしまったのだ。
突然連絡が取れなくなり消えてしまった龍玖を伴はずっと思い続けてきたが、その4年後の今年、伴は愛羽と出会い、そしてその少女が彼の妹だということを知ったのである。
前の東京連合との戦いでは巨大な敵にどう立ち向かえばいいか分からなくなってしまった愛羽に、それまで言わずにいた兄との関係を明かし、一緒に戦いましょうと言って優しく抱きしめてくれた。
そんな訳で愛羽のいいお姉さんになってくれている。
その伴に愛羽の方から話を持ちかけた。
『え?私があの人を1人で迎えに!?どういうことなの?愛羽ちゃん』
『お兄ちゃん、出てからどうするのかまだちゃんと考えられてないみたいで。あたしの所にも戻ってこない方向で考えちゃってるみたいなんです。あたしは1人でも全然やっていけるし、いざとなったら頼れる人もいっぱいいるんでお兄ちゃんがそう言うなら仕方ないっていうか、それならそれでもいいとしか言えないんですけど、でも伴さんは…』
兄が何を考えているのかは愛羽には分からない。年頃の愛羽に気を使っているということも考えられるが、きっとそれだけではない何かがあるから何年も服役して考えているのに何かに迷っている。兄はそれを愛羽には言わない。
だから愛羽も無理には聞けないし、これからどこかへ行ってしまうというのなら止めることもできない。本人が決めるならうなずくしかない。
だが伴はどうだろう。それで納得するだろうか。ずっと思い続けてやっと帰ってくるのに、またどこかへ行ってしまったら…
『あたしが言うのも変なんですけど、伴さんがウチのお兄ちゃんを思ってくれてるのすごい嬉しくて。それならお兄ちゃんにも伴さんのこと大事にしてほしいと思うんです。だからあたしより伴さんに1番最初に会ってほしいんです。すいません、勝手なこと言って…』
愛羽は兄に伴の気持ちに応えてほしいと思っている。だがそればっかりは龍玖本人が決め選ばなければならない。だから愛羽は2人が良い方向へ向かってくれることを願って、伴に託してみることにしたのだ。
『分かったわ、愛羽ちゃん。その役目、私に任せてちょうだい』
と、伴はそれを快く受けたのだった。
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