第13話 GPZ
『じゃあ、あたしについてきてね』
病院を出ると3人は早速走りだした。
綺夜羅は後ろから瞬を観察している。
『GPZか…』
瞬の乗っている単車はカワサキのGPZ750だ。
1番最初に走り屋として焔狼を作った頃、自分たちは暴走族ではなく走り屋だから、乗る単車も暴走族がよく乗っているような中型の物ではなくて大型のカッコいい単車にしようと瞬が言い出し、まずは2人で1台単車を持とうということになり瞬と泪は2人でこのGPZに決めた。だから瞬はずっとこの単車に乗っていた。
東京連合となってからはあまり熱心に単車のことなど気にしてはこなかったが、愛羽たちとのことがあってから再び単車にも目を向け直し、今は外装もピカピカに磨かれ整備にも気を配っている。
これからも大事に乗り続け、泪がいつか目を覚まして一緒に走れる日までGPZと待つつもりでいる。
(なるほど。「走り屋」というだけのことはありそうだな…)
綺夜羅は瞬とGPZをずっと目で追っていた。
デニムのひざまでのスカートに黒い短めのTシャツを来ていて格好は女の子らしいがとんでもない。およそ240kgある750の単車を乗り慣れた自転車のように軽々と乗りこなしている。その姿を見て綺夜羅はワクワクしてしまっていた。
1時間と少し走ってやっと目的の峠に着いたらしく、3人は見晴らしのいい休憩所に停まった。するとすぐに瞬が2人に声をかけた。
『ねぇ2人共、朝ご飯食べた!?』
シートにくくりつけてあったバッグから何やら袋を取り出すと、中からラップに包まれたサンドイッチが出てきた。
『ちょっとこんな時間になっちゃったけど、よかったら食べない?』
『え!?おいしそー!いいの!?』
『一応3人分ってことで作ったから、食べてくれたら嬉しいな』
ちょっと恥ずかしそうに袋からサンドイッチを取り出すと2人に手渡した。
愛羽も綺夜羅も朝からドタバタしてまだ何も口にしていなかったので素直に嬉しかった。
それにしても、これが本当にあの雪ノ瀬瞬だろうか。愛羽は七夕祭りで初めて会った時、手に持っていたタコ焼きの袋を蹴り飛ばされ跡形もなくバラバラにされ、それを拾えと言った愛羽に落ちたタコ焼きを目の前で更に踏みつけ微笑んでみせたあの瞬間を思い出し、1人吹き出し笑ってしまっていた。
『ぷぷっ…』
『?どうしたの?』
『え!あ、なんでもないなんでもない』
愛羽はそれを言える訳もなく笑ってごまかし、3人はベンチに座ってサンドイッチを食べ始めた。
『あっ、おいしい!』
『んっ、うまい!』
『本当に!?よかった。あんまこういうのやらないから、ちょっと自信なかったんだけど』
『え!?全然おいしいよー!』
『うん。逆にお腹空いちゃうやつ』
『本当にー?よかった、ありがと~!』
3人はサンドイッチを食べた後、そこからの景色を楽しんだり記念撮影をしてはしゃいでいた。
『この峠に来たらね、まずはここに停まるんだ。ここの景色綺麗でしょ?まだ焔狼ができてすぐの頃、4人でよく来たんだ。暁さんが電話くれたら、なんか急にここに来たくなっちゃって』
瞬は目を閉じ深呼吸した。
『そういえば泪ちゃんさ、表情が変わったよね?』
『表情?』
『なんかちょっと穏やかになったって言うか、ビミョーにだけど優しい顔になったような、そんな風に思ったんだけど』
『本当に?』
1ヶ月前は確かにもっとどこかツラそうだった。意識が戻らずもう2年も眠り続ける彼女に、そんなに目に見えて分かる変化があるものなのかは分からなかったが確かに愛羽はそう感じていた。
『うん。なんて言えばいいか分かんないんだけど、安心して寝れてるような感じに見えたよ?』
『あたしは毎日いるんだけど。確かに最近ね、泪が笑ってるように見えることがあるの。暁さん、それ気のせいじゃないよね?』
『うん、気のせいなんかじゃないよ。そだ、綺夜羅ちゃんはどうだった?』
『え?あぁ、あたしは会うのは初めてだったけど、寝顔は落ち着いてそうだとは思ったぜ。毎日あーやって話しかけたりしてんのも、なんか想像できたしな。何よりこれが東京連合の総長たちと思えねーぐれぇいい顔してたしな、3人共』
言ってすぐ綺夜羅は今の発言を振り返った。
(やべ、一言余計だったかな)
だが意外にも瞬は涙を流していた。
『…あのね、病院で周りの人たちの目に、自分がどうやって映っていけたら他の患者さんとか看護婦さんたちに泪のこと良く思ってもらえたり、いつまでもちゃんと見てもらえるのかなって考えたんだけど。自分のすること全てが泪につながってくって思い始めてから、自分ができることを暁さんを見習ってやるようにしてるんだ。自分ができることってこんなにいっぱいあるんだって分かって、頑張らなきゃって思ってるんだけど。でも、たまにそんなことが本当に泪の為になるのか分からなくなることもあってさ。だからそういう風に言ってもらえるのが嬉しくて…暁さん。あたしあなたになんて言えばいいか…』
『なになに、なんも言わなくてオッケーだよ。瞬ちゃんたちが頑張ってるからこそじゃん。よかったね♪』
愛羽がニッコリ笑うと瞬は愛羽のことをギュッと抱きしめた。
『本当に…ありがとう』
(なんだよオイオイ。ずいぶん熱いじゃねーかよ)
女同士のハグだが綺夜羅は目のやり場に困ってしまった。雪ノ瀬瞬の変わり様はこの愛羽に影響されてのことらしく、綺夜羅はそれで納得していた。
『…さぁ、行こっか。ここからはずっと一本道で峠が続いてるから、車も少ないし思う存分走れるよ!』
3人はそれぞれ単車に乗りこむとエンジンをかけた。
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