第6話 着火します

 玲璃と蓮華が校門の方を回って教室に戻ろうとすると何やら見かけない顔の2人組がこっちを見ていた。制服を着ているがブレザーなのでここの生徒ではなさそうだ。するとオールバックの女の方が声をかけてきた。


『おいお前ら。暴走愛努流って奴ら知らねーか?』


 これには2人共足を止め振り向いてしまった。


『なんだ?あいつら』


『いいよ。放っといて行こ』


 思わずからんでしまいそうな玲璃の腕を蓮華はしっかりとつかまえていた。そのまま玲璃を引っ張っていこうとするとオールバックの女はまた呼び止めた。


『え?おい、どーなんだよ。知ってんのか?知らねぇのか?』


『…知らない』


 蓮華があまりにも視線を向けてくるので、玲璃は仕方なく知らないフリをした。


『あ、あの人嘘ついた』


 そう言ったのは校門の所で他の2人と様子を見ていた二階堂燃だった。


 彼女がエスパー燃と呼ばれるのは人の嘘を見破ることができるからだ。どんな理由でそう思うのかは不明だったがエスパー燃と呼ばれるだけあって、嘘か嘘じゃないかをこれまで100%見破ってきた。


 そしてその言葉を数は聞き逃さなかった。


『お前、今嘘言ったらしいな。なんで嘘ついた?知ってるか聞いてんのによ。さてはお前…』


 バレたか…玲璃と蓮華は目をつぶった。


『さてはお前もそいつら狙ってんのか?』


 よしっ!バレてない!2人は心の中で笑っていた。


『なんだよ。あたしら今ダンスの練習してんだよ。もう行っていいか?』


『…あぁ。いいぜ、行って』


 いかにも玲璃が迷惑そうに言うと数も仕方なく諦めた。玲璃と蓮華は歩きだしていく。


 よく耐えた。偉い、玲璃と蓮華が思ったのも束の間、一気に状況は引っくり返ってしまうのだった。


『ねぇ数。そうじゃなくて、あの子たちがそうだったんじゃないの?』


『あぁ!?そんな訳ねーだろ?面と向かって聞いてんのに名乗れねーなんてとんだ腰抜けじゃねーか。ま!暴走愛努流が腰抜けじゃねぇなんて保証もねーけどな!』


 それを聞いて玲璃も心より体が先に動いていた。


『あ!玲璃!』


 蓮華が声をあげた時にはもう遅かった。玲璃は真っ直ぐ数と呼ばれる女の方へ走っていた。


『ん?』


 数が気づくのとほぼ同時、玲璃必殺の飛び蹴りだ。


『うぉっ!』


 数はガードしようとしたが間に合わず蹴り倒された。


『黙って聞いてりゃテメー。言いたい放題言ってくれやがって、この野郎!暴走愛努流がなんだって?あたしの目の前でもう1度言ってみやがれ!』


 数は起き上がると姿勢を低くして玲璃の方を向いて構えた。


『やっぱりそうだったか』


 そう言うと今度は数がつかみかかり玲璃のことを後ろからガッシリとつかまえ、そのまま持ち上げた。玲璃は腕をはがそうと暴れたが数は放さない。


(くそっ、このバカ力め!外れねぇ…)


 そのまま勢いをつけて数はバックドロップにいった。


『うわ!』


 玲璃はとっさに頭をかばったが地面に叩きつけられてしまった。頭は打たなかったものの腕でかばったせいで玲璃は傷を負ったようだ。


『玲璃!』


 蓮華が呼ぶと玲璃は起き上がり、手でパンパンと砂を払い構え直した。


『痛ってぇーな、くそったれ』


 玲璃の目つきが鋭くなった。


『あの金髪の子、結構やりそうじゃん。ねぇ燃、どっちが勝つと思う?』


『燃は数が負ければいいと思う。』


 旋が話しかけたが燃は何故だか機嫌が悪そうだ?


 玲璃と数は互いに出方を窺っている。


『おい金髪。お前が暴走愛努流の総長か?』


『うるせー!お前に話すことは何もねぇ!』


『ちっ、おい掠。あっちの奴はお前にくれてやるよ』


『なんであんたが上から言うの!助けてほしいんならお願いしないとダメでしょ?』


『あーはいはい。じゃあいーよバーカ』


 数はそう言ったが掠は蓮華の方へ歩いていった。


『ねぇ、あんたたちが暴走愛努流なのよね?』


 蓮華は少し間合いを保って答えた。


『だったら何?なんか問題あるの?』


『まぁ聞いてよ。総長はあの金髪の子?それともあんた?それとも他の子なの?あたしたちが知りたいのはそこなの』


 掠はその眠そうな目でうっすらと笑った。蓮華は落ち着いて聞き返した。


『それを知ってどうするの?』


『あたしとあっちの子、どっちが先に暴走愛努流の総長をやれるか勝負してるの』


 蓮華は、そういえば豹那がこれからは暴走愛努流も狙われる側になるかもしれないから気をつけろと言っていたのを思い出した。


(要するに暴走愛努流の総長に勝って格を上げたい的な?そういうこと?)


 蓮華はそう理解した。


『だったら、教える訳にはいかないわね』


 掠はそれを聞くと溜め息をついた。そしてポケットから指なしのレザーグローブを取り出すと蓮華の方へ歩いてきた。


『じゃあ仕方ないね。体で聞こうか』


 掠は手袋をはめて構えた。蓮華も構えるしかなかった。


『ん?あんたボクサー?へぇー…』


 掠がその構えを見て言った。


 蓮華はあれから麗桜にボクシングを教わっている。チームの看板を背負う以上何かに巻き込まれない保証はない。少しでも自分の身を守れるようになってほしいというのはみんなの願いでもあったし、蓮華自身前回七条琉花と龍千歌に何もできないままボコボコの半殺しにされてしまったことが悔しかったらしい。だから麗桜に付き合ってもらい色々教えてもらっている所なのだ。


(って、いきなり実戦かよ。もう、玲璃のバカ…)


 掠は一瞬で蓮華の目の前まで来た。


『ほら、打ってみなよ』


 蓮華は言われるがままに打っていったが掠はそれを楽にかわしていく。


(この子、速い…)


 蓮華がそう思った瞬間、掠からパンチを腹に打ち込まれた。


『うっ!』


 蓮華の頭の中に琉花と千歌にやられた時の記憶が甦った。あの時は何発も腹に琉花のパンチを打ち込まれ、息もできない程苦しみ転げ回っていた。しかしそれを思い出したことが今の蓮華に闘志を燃え上がらせた。


(よーし。初めての試合…絶対勝ってやる!)

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