第22話
「あいつを潰せ」
西園寺は俺が向かってくることに気付いたようで、周囲を守らせていた黒服の一人を差し向けた。
「一人なら好都合だよ」
生憎一対一は得意なんだ。見る相手が複数いるとどうも集中力が分散してしまって。
俺は臆することなく懐へ歩みを進める。
黒服は、俺を仕留めようと警棒を振り下ろす。俺はギリギリで頭直撃を避けた。
そしてお返しにと鳩尾にパンチを食らわす。
ついでに股間への蹴りも忘れない。
いくら攻撃が強かろうと、弱点に当たらないと意味が無い。
「システマは攻撃されても痛みを感じないし、ダメージを受けない格闘技なんだよ!」
黒服は俺に殴り飛ばされた。
「システマはそういうもんじゃねーよ!」
カッコよく決めたつもりなんだけれど、西園寺に思いっきり突っ込まれた。
「ネットではそう書いてあったけど」
実際にダメージを受けていない動画が何本かあったよ。
「どう見ても視聴者を釣るための嘘だよ!」
じゃあアレは嘘だって言うのか?
「ちょっと肩痛くなってきた」
叩かれたところがちょっと痛いかもしれない。
視界もちょっとぼやけてきた気がする……
バチン
唐突に俺の鼓膜にそんな音が響いた。
「夏樹!しっかりして!」
京だった。
「危ないから待ってろって」
こんな最前線にいたら危ないじゃないか。
「待ってろって言われても、本来の夏樹じゃないから心配だよ」
「本来?」
本来?いつも俺はこんな風に京の為に動くぞ。確かにシステマは見せたことは無かったが、真っ当に学んだ俺の最新戦闘術だ。
「システマなんて使ってないで、ちゃんとボクシングがあるでしょ!」
「ボクシングって……」
そんな腕しか使わないし、集団を倒すのにも向いてない。それに何も付けてないと攻撃側でもダメージを負う格闘技でどうやって戦えと。
「夏樹自慢のスポーツでしょ?私は見たいな」
呑気にそうリクエストする京。
「見たいって言われても」
でもこんな真面目な状況でやってもボコボコにされるだけだけだろ。弱い俺はより実践向きの格闘技を使わないといけないんだ。
「大丈夫!夏樹のボクシングは最強だから!」
しかし京は引き下がることなく、ボクシングを所望している。
「分かったよ」
そこまでいわれると仕方ないか。俺はシステマをやめ、ボクシングの構えに移行する。
「でもこれで勝ったこと無いんだよなあ」
昔、ボクシングをやっていたと自称する近所のおじさんからトレーニングを受けていた。
おじさんが怪しいこともあり受講生は俺と、同い年の女子の二人だけ。
俺はその女の子にずっとボコボコにされ続けてきた。そこで思ったよ。才能無いんだよなあって。
最初はそいつが強いだけだと思ったよ。だから空手をやっている同年代の男に勝負を挑んでみた。そしたら当然負けた。
だから才能が無いんだなあと気付いた。
そんなもんを黒服にぶつけてどうするんだよ。
秒よ?秒。
「なるようになれ!」
しかしこうも期待されては引き下がることは出来ず、俺は西園寺を守るもう一人の黒服に特攻する。
黒服は西園寺を守るように立ち塞がり、蹴りかかる。
システマと違い当たってはダメなので全力で回避する。
どうにか避けられたので鳩尾を狙う素振りを見せる。
今まで体勢と身長差の都合上鳩尾しか狙っていなかったので、黒服は狙い通り防御を固めた。
しかし、今は前傾姿勢。この状態で一番当てやすい所はそこではない。股間だ!
俺は黒服の男の象徴を潰すべく、全力で右ストレートを撃つ。
ぐにゃりという気持ち悪い感触と共に男は悶絶した。
追撃と言わんばかりに、蹲ろうとする男の顔の軌道を読み、拳を入れる。
「なんか勝ったわ」
全く勝てる気はしてなかったけど、結果としては圧勝だった。股間は普通鍛えないもんなあ。
「とりあえずこいつもやっとくか」
守りが無くなったので、ついでにこいつの象徴も叩き潰しておく。こっちは明らかに素人なのであっさりと命中する。
「ぐへっ」
「うっ!」
それはもう入念に。大体5,6発ほど入れたら完全に立ち上がれなくなったので、こいつはこれで良しとしよう。
「お疲れ様。助けてくれてありがとう」
戦いを終えた俺を京が労ってくれた。
「別にこれくらい問題無いよ」
彼氏は命をかけてでも彼女を守る生き物だからな。
「ならよかった。後で一応保健室に行こうね」
「分かった。それとあっちも終わったみたいだよ」
剣道部と柔道部の方々も黒服の男達を倒しきってくれたようだ。戦闘態勢から捕獲に変わり、黒服を紐で拘束していた。
「皆ありがとう!」
京は全員に聞こえるようにお礼を言った。
「これくらい大したことないっすよ」
「俺たちは強いから」
「京さんが助かって何よりです」
と剣道部と柔道部の方々は若干照れ臭そうに言っていた。
何はともあれ、学生側に大きな被害が出なくて本当に良かった。
「とりあえず教師陣がこいつらを片付けておくから、皆は文化祭に戻れ」
少し休んでいたせいか、そもそも大したことは無かったのか、すっかり元気な佐藤がこの場を仕切っていた。
佐藤に聞いたらとりあえず職員室に閉じ込めておくとのこと。
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