第17話

「無駄に服の質が良いな……」


 この間貰ったグローバルランの服よりも圧倒的に素材の質が良い。そこら辺の店で売っているコスプレ商品とはレベルが違った。


「普通に5万くらいで売れそう」


 どう考えても若者向けに作られていないそれは、今から働かされる俺たちにぴったりとはまった。


「大……お前……」


 最初にちゃんと採寸した上で作られているはずのメイド服が、何故かぴちぴちなのだ。大だけ。


「あいつら……わざとやってんだろ……」


 その通り。実は以前、馬鹿二人が大には小さめのメイド服を用意して似合わなさを高めようという会話がなされていたのだ。


 正直な所俺も見たかったので放っておいた。


「流石大、鍛えているだけあるよ」


 俺は大の方を叩く。


 ぴちぴちなこともあり、体のラインがくっきりと出ている。鍛えられた胸筋や腕の筋肉が服を張り裂かんとしている様は非常に滑稽だ。


「笑うな」


 恥ずかしいのか大は俺の頭を強くたたいてきた。痛い。


 そして本命の方々は……


「二人とも本当に来ているんだね……」


「どうかな?夏樹」


 いや本当に最高か?


 流石ウチの京だ。涼野も涼野で非常に似合っている。スタイルが非常に良いこともあり、仕事が出来そうなエリート感を感じて非常にカッコいい。短めにしたスカートから見えるすらっとした足は見るものを魅了するだろう。


 それでも、うちの京が一番だ。最高に可愛い京が最高に可愛いメイド服を着ているのだ。これが最高じゃないわけないじゃないか。今俺は天国を目の当たりにしている。


 天真爛漫に振る舞うその姿は、いつまでも頭を撫でたくなるような魅力を醸し出している。


 はっ!


 そんなことを考えていたら無意識に頭を撫でていた。


 まあ京も喜んでいるし、それでいっか。


 構わず俺は頭を撫で続けた。


「オイ馬鹿」


「そろそろ離れなさい」


 大と涼野に頭をひっぱたかれた。酷い。


「合意の上だから良いじゃないか。ほら」


「そういう問題じゃねえ」


「時間が無いのよ。さっさと行きましょう」


 俺たちは接客をするために教室へと戻った。


 教室は、これから来るであろう客を出迎えるための準備で慌ただしかった。


「このフライパンをキッチンに置いといて」


「水を早く引かないと」


「その位置だと衝立が燃える!」


 テーブルなどの準備は既に完成していたけれど、キッチンがまだのようだ。


「俺たちが入っても出来ることも無さそうだし、邪魔しないように待っておくか」


「そうだな」


 大の提案通り、そこら辺に座って待っていることに。


「どのくらい来るんだろうね~」


「去年も多かったけれど今年はどうなることやら」


 正直予想もつかない。流石に涼野のエゴサーチなんてしないので注目度は分からないが、涼野自体が最近かなり人気になっていることもあり、前年度の文化祭よりも大量に人が集まりそうだ。


 ファンなら涼野のメイド服姿は見過ごせないだろうしな。


 学校内部に至っては京に対する注目度も非常に高いので猶更だ。


『今から文化祭が始まります。これから外部の方が一気に校内に入ってきます。生徒の方は落ち着くまで入り口周辺に向かわないように協力お願いします』


 放送部によるアナウンスで、文化祭が始まった。


 シフトではない人は教室から離れ、シフトの人はこれから来る客の為に気合を入れた。


「やべえ量だな」


「そうだな」


 大は教室の外から見える人の海に驚いていた。


 去年より多いとは言っても2倍くらいが関の山だろうと思っていたが、4倍くらいは居たので無理もない。というか俺も若干ドン引きする量だ。


 ウチの学園祭は非常に好評の為、毎年毎年外部から来る人の量が増えているのは知っているが、どう考えてもその比ではない。


 流石涼野。本気を出すとこうも凄いことになるんだな。


「もしかしてアレが……?」


 涼野は若干震え声で話す。


 その通り。


「ここがメイドカフェかー!」


「楽しみね」


「あ!涼野様が居たわ!」


「涼野様―!!!!!」


 涼野の恐れていた通り、見えていた客の大多数がここにやってきた。


「いらっしゃいませご主人様」


「どうぞこちらへ」


 ここから俺たちの怒涛の仕事が始まった。


 どれだけやっても、どれだけペースを上げても客は減ることが無い。何なら客は増えていく一方だ。話を聞いていると県外からやってきた客の方が多いらしく、注目度の高さを感じた。


 つまり涼野の為だけにやってきた人たちが多かったのだけれど、俺や大が応対しても文句を一切言うことが無い親切な客ばかりだった。


 予想していた、涼野や京に対してナンパしたり、しつこく呼び止めたりするような迷惑客は一切おらず、何のトラブルも起きることは無く時間が過ぎていった。


 そして開始してから2時間。12時になった頃には最初に用意していた食品が全て無くなるという偉業を成し遂げた。


「申し訳ありません。提供できる品が無くなりましたので、一旦お帰り頂けると幸いです」


 委員長は水に金を払わせればとか言っていたが、倫理に反しているので流石に止めた。


 そのため全てのシフトは中止。食品が来るまでは全員休みとして、届いたら全員で回すということになった。


「これじゃ回るのすら一苦労だよ」


「完全に涼野のせいだな」


「私は悪くない。悪いのは杉野だ」


 余りにも人が多すぎて通れないというのもあったが、涼野が延々と声をかけられる方が主な原因だった。10m歩くのに10分はかかるのではないかというレベルだった。


「じゃあ文句言いに行くか」


 というわけで杉野のクラスに向かった。

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