第16話
「ただいま戻りました!」
「お帰り、佐紀。それに、二人もいらっしゃい」
パソコンとにらめっこしていた東さんは俺たちを優しく出迎えてくれた。
「来たよ!」
「お邪魔します」
現在生徒会室には東さんしかいなかった。まあ生徒会はこの3人に加えて会計しかいないので当然ではあるけど。
その会計の人は基本的に生徒会室には顔を出さず、メール等でやり取りをしているそうだ。
以前文句は無いのかと聞いたことがあるが、仕事が出来るのなら問題ないとのこと。
実際東さんが今パソコンを使えているのも会計の手柄らしい。
「ちょっと準備を手伝ってもらえるかな」
「良いよ」
会長が畳を敷くとのことで、一緒にやってみることに。
「意外と軽いんだね」
そこそこ重いだろうと力を入れて持ち上げたが、かなり軽く、あっさりと持ち上がった。
「どこかに固定で置いておくものじゃないからね。持ち運び重視で軽いのを購入したらしい」
和よりも洋が良いという風潮が割と強いけれど、なんだかんだ文化祭等のイベントごとに引っ張りだこだからな。
本番はまだまだ先なので、3個ほど畳を置いて今回の作業は終わった。
「助かったよ。お礼に予算いる?」
「露骨な権力乱用は止めなさい」
唐突に金を提供しようとしてきたので、丁重に断っておいた。
本当のお礼として、お茶とお菓子を頂くことに。
「美味しい!」
「でしょ!今回は私が選んだの!」
「凄いね!」
京が美味しそうにどら焼きを食べる姿を見て、嬉しそうに話す木村さん。
「こんな感じのお菓子がそのまま文化祭で出るから良かったら来てね。この間の羊羹みたいに高いものじゃないから」
東さんが付け足すように話した。文化祭ということもあり会長の好む高級和菓子ではなく、お手頃価格な和菓子をメインに据えるらしい。
けれど、会長の選んだお茶のセンスなのか、はたまた木村さんのセンスなのか、お茶に非常に合っていて美味だった。
「さっきの話は冗談だけど、正直な話もう少し予算を渡したかったよね」
「どういうこと?」
文化祭は予算の上限が決まっているけれど、不自由な金額じゃない。だからこれ以上あったとしても食事が少し高級なものになる位だ。
「青野がメイド服を着るって聞いてね。面白いから大々的に宣伝したくなってね」
あまりにも酷い理由だった。
「そんなことしたら打ち上げに1千万くらい使ってやるからな」
「ははは、そんなことしたら来年から無くなっちゃうよ。それに他のクラスから不満が出るからやらないよ」
「そうあってくれることを頼む」
「まあ、グローバルランがバックに着いた時点でって感はあるけれどね」
企業がバックに着いた以上、多少なりとも俺たちの出し物に対する期待は高まるし、外部からの足も増える。
そんなことをしていると、準備に使っていい時間を過ぎていた。
「もうこんな時間か」
「長い間付き合わせてごめんね」
「別に良いよ。お菓子とか頂いちゃったしね」
「じゃあ皆で帰りましょうか」
「そうだね。京、教室に荷物取りに行こう」
「オッケー」
そして数日が経った頃には何事も無く文化祭に向けての準備は終わっていた。
その頃になると設備班の仕事は無くなり、美味しい料理にする為の詰めが主な仕事になっていた。
「私も料理食べたいよ!」
「駄目です。あなたたちには重要な仕事があるんですから!」
そんな中、俺たちはメイドとしての所作の訓練をさせられていた。
別に本物の店で働くわけじゃないのだからある程度適当で良い気もするんだけど、バカ二人がそれを許さなかった。
「俺たちが目指すのはただ可愛いメイドカフェじゃない。完璧なメイドカフェなのだ!」
「そのために、君達には本場と現代風、二つのメイドについて学んでもらう必要がある!」
とのこと。俺にはよく分からないが、大切なことらしい。
「もう疲れたよ夏樹~」
当然ながら京はギブアップしている。そりゃあそうだ。というより、二人以外が基本的にダウンしている。
メイドカフェの奴ならともかく、本場のメイドを求める必要はあるのだろうか。洗濯や掃除のような家事の練習は本当にする意味が分からない。
まあメイドカフェの練習と違って将来為になりそうだから別に悪いことでは無いんだけれど。
とまあそんな感じで無駄に本格的な練習が行われていた。
俺たちはそれに無事耐えきり、本番当日を迎えることが出来た。
「ついに本番だ……」
大は既に疲弊しきっていた。
「この二日を乗り切ることが出来れば俺たちの勝ちだ」
「そうだな」
俺たちは最初のシフトに入るべく、メイド服に着替えることになった。
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