第6話

 放課後、大と涼野は二人で帰ることに。


「じゃあね、二人とも」


「おう」


「また明日ね」


「じゃあな」


 一旦お別れの挨拶をして、二人は教室から出て行った。


「ということでどうする?京」


「勿論!決まっているよね?」


 ということで追跡任務が確定した。


「テレレレッテレー!GPS」


 某青狸さながらの声で京が取り出したのは、いつも使っているスマートフォン。


「まさか…… 見損なったぞ」


 犯人が目の前にいる女性だったとは……


「そんなわけないに決まっているでしょ!待ち合わせの為に入れているの!」


「世の女子高生ってそんなものなのか?」


「ん?そんなものじゃない?」


 まあ同意の元だったらいいか……


 涼野がその機能を結構前から切り忘れているらしく、普通に追跡が可能とのこと。


「じゃあ行こう!」


 二人が出てからしばらく経った後に、俺たちも教室を出た。


「カップルで帰るところ悪いんだけど、青野君ちょっといいかな?」


「誰?」


「僕は1組の杉村薫だよ」


 この人が杉村か。優男で評判の高い男だ。思っていたよりも背が高く、180㎝位あった。


「その杉村君が何の用で?」


「ちょっと聞かないといけないことがあってね」


 今日は京と帰ること自体がメインじゃないし、見張りは京だけで十分か。


「じゃあ今日は先に帰っていてくれ」


「分かった!」


「付き合ってくれてありがとう。ここで話すような内容じゃないから、少し移動しても良いかな?」


「問題ないよ」


 連れられてきたのは図書室。


「で、用件は?」


 図書室に誰もいないことを確認し、話し始めた。


「単刀直入に言うけど、涼野さんの事だね」


「涼野がどうかしたのか?」


 さっきストーカーの話があったばっかりだ。警戒レベルを引き上げる。


「彼女と仲良くなりたいと思ってね。その仲介役を君にお願いしたいと思っているんだ」


「じゃあ大でも良かったんじゃないかな?」


「念のためかな。僕がこう申し出た相手が彼氏でしたーってなった場合少しこじれそうだし」


 確かに、紹介を依頼した相手が彼氏だった場合の気まずさは相当なものだ。


 となると京と付き合っていることが確定している俺が一番都合の良い相手になってくる。


「確かにそれは一理あると思う。で、どうしたいの?」


「目標は二人で仲良く話せるようになることかな」


 思っているよりもささやかというか。まあストーカーならそこが目標になっても変ではないのか?


 まあ確定ではないからちゃんと相手はしておかないとな。


「分かった。じゃあ何をして欲しい?」


「何をして欲しい、か。まずは涼野さんの情報を教えて欲しいかな。こんな感じで二人で会うか、電話で話しながら」


 それくらいなら大した負担にはならないか。


「基本的に放課後は京と帰るから、電話でお願い」


「オッケー。迷惑かけるね」


「これぐらいは大したことないよ」


 俺たちはスマホを取り出し、連絡先を交換した。


 アイコンは自分の顔、しかも加工など一切なし。本物の顔で勝負したものだ。しかし、そこら辺の加工した顔に劣らない、寧ろ勝るくらいの出来だった。


「流石だね」


 思わずそう言ってしまった。


「もしかしてこのアイコンの事?」


「そうだね」


「お姉ちゃんがカメラマンでね。折角だから撮って貰ったんだよ」


「なるほど、だから出来がここまでいいわけだ」


「そういうこと」


 確かにカメラマンの親族が居たらそんなアイコンにするかもな、と動物園で撮ったフラミンゴが映った自分のアイコンを見た。


「連絡先も交換したことだし、涼野についての話をするか」


「そうだね。じゃあ今日は一つだけ。彼女の趣味は何かな?」


「趣味か。テニスじゃねえかな。する方も見る方も」


「そうなんだ。イメージらしいと言えばらしいね」


 涼野はすらっとしていて身長が高い。若干色白な毛はあるが、それでもバスケ部のような室内系の運動部よりは外に出ているような爽やかな印象を受ける。


 別に室内系の運動部が陰湿というわけじゃないが。そっちはそっちで別の爽やかさが存在する。


「かもな。部活には入っていないがテニス部並の実力らしいよ」


 代わりにクラブに所属しており、高校生だけじゃなく大人達に混ざって練習しているらしい。


「それはどうして?」


「クラブの方が部活より設備が良くて、コーチも元プロだか何だかでより強くなれるからだってさ」


 間違っても部活が嫌だからとかじゃあないらしい。


「の割には大会の活躍を耳にはしないけれど」


「そもそも大会に出ていないからな」


「それはどうして?」


「お金とか諸々が足りないから本格的に大会で優勝できるようになるまでは出ないんだとさ」


 大学になるまでに強くなって、一気に大会に出て賞金かっさらってくるとか言っていた。純粋に資金不足らしい。


「思っていたよりガチだね」


「そうだね。聞いたときにはびっくりしたよ。まあ本人曰く今のレベルだと県の大会でシード貰えるかどうか位とは言っていたけど」


「それ、普通に強いよね」


「だね。実際強豪校から推薦を貰えるレベルだとは思うんだけど、現状に満足していないらしい」


「それきっかけに話をしてみようかなって少し思ったけれど、そのレベルで詳しかったら流石に着いていくことは不可能そうだね」


 仲良くなった後なら問題ないだろうが、その前段階でテニスを深くは知らない杉村がこの話をするのはな。


「ただ、良い話を聞けたよ。今日はありがとう」


「なら良かった。また今度な」


 俺たちは図書室を出て、各々別方向に帰っていった。

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