第4話

「幼馴染同士の恋愛……!素晴らしいですわ!」


 そんな中、滑り込むかのように俺たちの前に立ちふさがった者がいた。


「京さんが絵に困っている時期に手を差し伸べてアドバイスをしたりとかしてたりするのかしら!」


 婦女子の方々である。巧みな想像力で、俺たちのエピソードを膨らませていた。


「ここの夏樹さんは正当なお付き合いを重ねた結果、晴れて京さんと結ばれたのです!」


「ただの嫉妬で邪魔などはさせませんわ!」


 続々と人数が増え、最終的には男の人数に匹敵するほどにまで大きくなっていた。


 いや別にそんなことは無いんですけど……


 でもありがたいので何も言わないでおこう。


「はあ……行こうぜ」


「そうだな」


 あまりにも強い熱意に男子たちの毒素が抜けたのか、去っていった。


「助けてくれてありがとうございました」


「いえいえ。こちらこそいいものを見させていただきました!!」


「お幸せに!!!!」


 女子の方々は目にもとまらぬスピードで俺たちの元を離れ、パーティーを楽しみ始めていた。


 切り替えが早いな。


「あの人たちっていつもあんな感じなの?」


 事情を知っていそうな玲に聞いてみる。


「まあそうだね。ここまでになることは無いけど、健全で物語的な恋愛が大好物なんだ」


「だからあんな素敵な話にしたの?」


「京正解。いくら男の子でも女性には手を出せないからね。特にこういった場では」


「なら俺たちの話を根掘り葉掘り聞いてきてもおかしくないと思うんだが」


 用事が済んだからと早々撤退していったのは不自然だよな。


「ああ、それはね。あの人たちは邪魔せずに遠巻きで見ることが至上としているから」


「どういうこと?」


「自分たちが絡むことによって、素晴らしい恋愛にノイズが入ってはいけない。みたいな考え方があるんだよ」


「だからこうして、周りを見てごらん。チラチラこちらを見ている女性が目に入るでしょ?」


「本当だな」


 意識して見てみないと気付かないが、明らかにこちらを見ている。


「だから、お返しをしたいのならここでイチャイチャしてあげるのが正解だよ」


「ということで頑張ってね」


 玲もどこかに行ってしまった。もしかしなくても玲もあちら側の人間なのか?


「でも特別に意識することもねえか。普通にパーティーを楽しもう」


「うん!」


 特に何かするわけじゃねえが、ここまで苦労かけた京にもてなすくらいはしてやろう。


「ちょっと待ってろ」


 俺は京を適当な場所で待たせ、ご飯を取ってくることにした。


 立食パーティーという形を取っていたが、絶対に食べてないだろう。


 数多くある食べ物の中から、京の好きそうなものをいくつかピックアップし、皿にのせて持って帰った。


「お待たせ」


「ありがとう!全部私の好きなものだよ!流石夏樹!」


「そりゃな。ずっと一緒に居るんだ。これくらい分からなきゃ幼馴染として失格だよ」


 京は嬉しそうに食べ物をほおばっていた。


 これには若干の敵意を向けていた男子の方々もニッコリ。


 遠くで見ていた女性の方々も会話が盛り上がっているようだった。


「夏樹は食べないの?」


「俺は既に食べたからね」


 京と違って人はそんなに集まっていなかったから普通に食べていた。


 いつもなら食べることの叶わない高級品などもあり、非常に美味だった。


 うちの学校でも食べさせてくれねえかな。当然無料で。


「でもおなかいっぱいは食べてないでしょ?はいあーん」


 京はフォークでハンバーグを刺し、こちらに向けてくる。


「どういうことでしょうか?」


「付き合っているんだからこういうことくらいはしたい」


 マジか。ならば。


「ありがたくいただきます」


 心の中で信仰心を抱きながら、目の前にある美味しそうな食べ物を口に入れる。


 味は当然として、今起きている状況に頭が幸せを隠し切れない。出来ることなら椅子に座り京を膝の上に乗せた上で頭をわしゃわしゃしたい。


 そしてその現状に心を動かされた人は俺だけじゃなく、嫉妬に燃えていた男子や、俺たちを応援していた人達もであった。


 当然方向性は違うため、会場は嫉妬と感動、喜びという相容れ無さそうな感情で渦巻いていた。


「どしたの?」


「何でもないよ。ハンバーグとても美味しかったよ」


 それはもう格別に。


「関係ないんだけどさ、何でさっきからバタバタ人が倒れているの?」


 よく見ると、男女問わず様々な人が倒れてはどこかに行っていた。


「なんでだろうな」


 理由は分かっていたが、俺は言わないことにした。


「もしかして、この食べ物の中に?」


 少し不安になったのか、フォークを持っていない手で俺の裾を掴んだ。


「それは無いから安心して。金持ってる人が用意した場だから問題ないよ」


 仮にそんなことがあった場合、恐らくというか確実に俺らの母校はこの国に最初から存在しなかったことになっているだろう。


「なら良いんだけど」


 結局このパーティーはそれ以降俺たちの元に直接話しかけてきたのは玲だけで、平穏無事に終了したと言えるだろう。

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