イチゴのお饅頭

おくとりょう

彼女の部屋で

『どうしてそんなにも蒼いの?』

 彼女の手がまだ温かい私の肌を優しく撫でた。

 両手で包み込むように抱き上げると、濡れた瞳でじぃっと見つめてから、深呼吸をする。

 目を軽く閉じた彼女は大きな口を開け、白い肌へと噛みついた。

 でも、彼女の小さなあごに噛み切れるわけはなく、ただ可愛い歯形が残った。じんわりと少しの赤が滲む。

 ため息をついた彼女は手元のナイフを手に取った。はじめから切ってくれれば、よかったのに。

 刃は滑らかに白い皮に沈みこみ、一口大の私が切りとられた。赤く甘い蜜を滴らせながら、彼女の口へと運ばれる。

 私の甘い愛を黙々と堪能する彼女が愛おしい。


 不意に、手を止めて、まぶたをゆっくり開いた。

「……もうダメ」

 小さくつぶやく彼女。血の気のない青白い頬をひとすじの雫がこぼれ落ちる。

「……ごめんなさい。

 もう食べられないの」

 堰を切ったように、ぼろぼろと涙が溢れ出した。

 私は愛おしい彼女が泣き止むのをしずかに待った。

『…いいのよ』

 私の声に彼女はピタッと動きを止める。

『…慌てなくて、いいのよ。

 でも、最後まで全部食べてね』


 だって、彼女から求めてきたんだもの。当然よね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イチゴのお饅頭 おくとりょう @n8osoeuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説