求めているのは君じゃないし、君が求めているのも俺じゃない。と思う。
冬峰裕喜
第1話1
何者かになりたかった。何者か、を具体的に説明しろと言われても出来ないが、とにかく特別になりたかった。まだ過去形を使うべき年齢じゃないことも分かっている。だが、見当たらない、分からない。目的のない場所を目指すなんて叶わないと同義だから。
電車に揺られる。車窓の外へと投げかけていた目線をスマホの画面へと落とす。
人生を楽そうに過ごしている20代社長の「いいね」稼ぎのツイートがタイムラインに流れてくる。俺の人生では手にすることも、現実として見ることも出来ない量の札束がピラミッドとなって無造作に積み上げられている。
”いいねとRTで配ります”
条件反射で。何も考えずに。ただ、これだけお金があればどんな人生を送れるのだろうかと無意味な妄想を広げながらいいねとRTボタンを押す。
動画配信サイトを覗いてみて見ると、自分と大して年齢の違いがない者達が仕事といって朝からゲーム配信をしている。
またもや無意味な妄想が頭を駆け巡る。朝からゲームが出来たらどれほど良いか。なおさら、それを仕事に出来たらどれほど良いか。
目線を周りに写す。目に見えるのは格好がほとんど同じのサラリーマンだけ。夢とか希望とか仕事のやりがいとかを通学途中の高校生に見せる気がさらさらないのだろう。それらの顔は諦めていた。自分がしていることに疑問を持っていない顔をしている。
彼らは受け入れ、順応したのだろう。
・・・疑う。
何故、彼らを華々しく見ることが出来ないのだろうか。
駅に着き、彼らの一部は電車から降りる。新たな一部は電車に乗る。
不幸だ。そう結論づける。
何が不幸かというと、この時代に産まれたことが不幸だ。
成功者を身近のように感じさせ、新しい価値を直ぐに植え付ける。
だから・・・俺はいつまでたっても何かになりたいなんて考えているのかもしれない。端から見たら、ただの厨二病かもしれないこの考えは、この時代に植え付けられたものなのかもしれない。
そう考えると少し気分が晴れる。
これは俺のせいじゃない。時代のせいだ。こんなに何か分からない何かを求めている、とち狂っているこの思考は。俺のせいじゃない。
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