思い出をデキャンタに閉じ込めて その7
しばらくしてから『GASCO』を出た僕たちは、四分谷璃子の歓迎会をお開きとすることになった。只野部長は強引にカバオと影山先輩を連れてカラオケに行くそうだ。浮島先輩は自転車で、僕と四分谷は電車でそれぞれの帰路につくことになった。
「みんな~、それじゃあ気をつけて帰ってね~。真人くん、あんまり遅くまで遊んじゃダメだよ~」
一足先に自転車に乗って去っていく浮島先輩を見送った僕たち五人は、東三ツ山駅まで歩き出した。駅までは徒歩五分、手前には部長たちの目的地のカラオケ店もある。
「四分谷ィ、次はカラオケに付き合えよぉ」
「はい、また誘ってください。今日は楽しかったです。食事もご馳走していただいて本当にありがとうございました」
「リンタロー! どうしてお前もカラオケに来ないんだ! さては璃子ちゃんと一緒に帰るためだな! 抜け駆けは許さんぞー!」
「すまん、明日は一限目から授業があるんだ。」
狼狽するカバオは僕を捕まえようとしたが、只野部長に止められた。三人とはカラオケ店で別れ、とうとう僕は四分谷と二人きりになった。
東三ツ山駅は小さな駅だ。ホームは一つで、普通電車しか止まらないのでタイミングが悪いと2,30分待たされることも珍しくない。四分谷は僕とは反対の方向に家があるみたいなので、この二人きりの時間はどちらかの電車が到着するまでとなっている。20時は過ぎているので乗客も殆どおらず、駅内はしんと静まり返っていた。蛍光灯に集まる羽虫の羽ばたきだけがホームを包んでいた。
「今日は突然誘って悪かった。ところで四分谷、今日の話、覚えているか?」
「あぁ、元カノのことですか?」
いたずらっぽく笑う四分谷。苦々しく笑う僕がそんなに可笑しいか。
「あ、あのなぁ……」
「冗談ですよ、先輩。星川村のことですね。帰ったらおばあちゃんに聞いてみます。だけどあまり期待しないでくださいね」
「助かるよ。僕も他にあてはないか考えてみる。そうだ、四分谷はtvitterとかやってないのか?」
「SNSの類は疎いもので。それがどうかしたんですか?」
「tvitterには、オカルト話を拡散しているインフルエンサーがたくさんいて、いろんな怪談や都市伝説を拡散して世に広めている。僕も何人かフォローしているんだけど、もしかしたら星川村にまつわる話を知っている人がいるかもしれない。『七十七瀬』とか『ツツノシン』とかが結構有名かな。四分谷は聞いたこと無い?」
「――残念ながら。柳田先輩、私もそのtvitterを始めておいたほうがいいでしょうか?」
「そうだな、暇な時にでもオカルト関係の呟きをチェックしてくれると助かるかな。僕一人ですべてチェックすることは中々難しいし」
そう四分谷と話している内に、僕はある案を思いついた。tvitter、拡散、都市伝説。
「どうかしましたか、先輩?」
電車の到着を告げるベルがホームに鳴り響く。僕が帰る方面の電車が先に着くようだ。
「いっそ、創ろうか、星川村の都市伝説」
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