世界観と恋の推理
夕月奏
世界観と恋の推理
世界観と恋の推理 2021 8 18
小説みたいに現実では人はある世界観だけに飲み込まれることもなければ、形成することもできない。仮にそうなれば、私はその世界のキャラクターを全て演じなくてはならなくなる。目に見えるものしか形づくられない世界で。
しばらくすると私は自身でない人を求めるだろう。しかし世界の崩壊とを天秤にかけた末に死にたくなる。
だが、仮に、万が一に私と同じ世界を持った人が現れたなら……、二人の世界はより強固となり街のにおいを醸し出す。
斜めから差し込む陽はやや強く、私たちの影を生み出す。そして彼女が私に言うんだ。
「私は君と今を生きている」
世界観という幻想でもあの日夢見たおとぎ話でもなく確実に今だった。
鶯の鳴き声がただ一つ聞こえた。もう夏だというのに。
彼女と見つめあい、私の鼓動は躍動する。どこまでも、どこまでも速く。
私たちは触れ合える。
「彼女と、」 「君と、」いるから。
彼女の美しい黒髪に指を通し、
君のしぐさをただ感じて、
右手を頬にそえる。
そこにいるのは君だ。音もない。感じるのは君の口づけだけ。無駄なものが全て剝ぎ落されたこの世界にいた。呼吸も忘れ君を求める。
この世界ではそうしないと生きられないから。
苦しさは感じない。
君が私に生きる理由をくれるから。
今世の中では君と私だけが同時に存在しているんだよ。
見えるものや聞こえる音、沸き起こる感情でさえ過去のものであったとしても、私たちは一緒に過去を感じればいい。
長い口づけの最中に二匹の鳥の鳴き声が聞こえたような気がした。
一つは少し荒々しく、もう一つはそれを包み込むように。
いや、あれは彼女の可愛らしい鳴き声であっただろうか。そうならもう一度聴いてみたいものだ。
そんなことを思い、隣を歩く彼女の横顔を盗み見る。それに気づいた彼女が私の手を取り二人闊歩する。向かうは彼女と私の帰る場所。
どうやら鶯は私の世界にはもういない。残していったのはとても美しい羽根だった。
世界観と恋の推理 夕月奏 @yuzuki-sou
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