1.5

 山入りしてから体感で1時間ほど経つ。槍のように突き刺さる雨の中、ぬかるむ道を進んでいく。雨具も意味をなさないほど強く振る雨は、慣れ始めた森を別世界へと変化させる。辺りを警戒しても聞こえてくるのは、雨音ばかり。霧がかかり、奥に進むにつれ濃くなっていく。視覚も聴覚も人のものでは全く役に立たない。濡れた衣類は追い討ちをかけるように、身動きを悪くし体温を奪う。森にいる時間が長くなるほど、状況は悪化していく。ダージとコリーも限界に近づいている。


「そろそろ引き返そう。」


コリーは振り絞るように言葉を発する。こんな状況で詮索し何もなければ当然だろう。しかし、ダージは息を潜めるように合図を送る。


「目の前に何かいる」


息を潜めるが何かいるようには見えない。コリーも辺りに目を配るが見つけた様子はない。


「ブヮーーーーーーーォォォ!!!!」


爆音が響き渡る。明らかに近くから聞こえている。必死に視界に入れようと首を動かすが霧と草木が邪魔をする。鼓動は早くなり緊張感が心臓を握り潰す。


ドシンッ…


ドシンッ…


「ブヮーーーーーーーォォォ!!!!」


2回目の爆音が鳴り響くと、目の前が青白く光出す。雨と霧は次第に晴れていく。目の前には巨大な鹿のような生物が君臨している。森に溶け込む綺麗な灰色の毛並。生命の進化を示すかのような角。神話や御伽噺の存在は青白い光を纏いこちらを見つめる。その存在に見惚れてか、それとも無意識に死を直感しているのか。凪の如く時は止まり。審判を待つかのように私達は直立する。

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