僕
バブみ道日丿宮組
お題:かっこいい僕 制限時間:15分
僕
兄という存在は立派でなければいけないと父は言っていた。
だが、僕は男ではないからそんなことはできないと言った。
それでも生まれた弟のために、兄になりなさいとさらに言われた。
よくわからず僕はなんでと言葉にする。
すると父は渋い顔をしてゆっくりと言葉にしてくれた。
『お父さんは弟が生まれた後、もう死んでしまう』
僕は何を言われたのかわからなかったし、理解したくもなかった。
目の前の人物がいなくなるという感覚がわからなかった。
すると父は診断書を見せてくれた。
母にも黙ってることだと付け加えて。
『俺ができなかったことを押し付ける感じになってしまうがお願いしたい。守って欲しい』
僕の肩をつかむ父の手は震えていた。
それで僕は本当のことなんだって理解した。
でも、でも……兄というのがわからなかった。
男らしく生きればいいのか、男になりぬくのか……困惑する僕を、
『普段からみんなを守るかっこいいお前でいてくれ』
父は優しく頭を撫でてくれた。そこには微かに哀しみの匂いがした。
そして母が弟を出産して間もなく、父は診断書に書かれた病名で確かに死んだ。
母が退院するまで僕は父が亡くなった事実を隠してほしいと、病院、親戚にいった。
批判されたが僕は交渉を続けた、母の心が折れてしまわないように、家族を守るために。
僕は後日親戚とともに、父を見送った。
涙はなぜか出なかった。
たぶん僕が兄という存在になるということを事前に父にお願いされていたからかもしれない。強くかっこいい自分を貫く。
でも、僕は自分の部屋に戻った時大泣きした。
声が外に漏れるくらいずっとずっと自分を責めた。母に父の最後を見せたかった。父の頑張った姿を見せてあげたかった。
色んな懺悔を口に出した。
さらに数日が経過し母は退院し、父の死を知って泣いた。今まで見たこともないような母の姿に僕は少し怖くなったけれど、僕は父との約束を思い出し自分を奮い立たせた。
泣く母とは別に赤ん坊の弟はわからない様子で泣いていたから僕は弟をあやした。綺麗な笑い方をする弟だった。
さらに数年がたっても、母は僕を恨むようなことはしなかった。
『あの人は誰よりも家族を守る人だからね。あなたは間違いなくあの人の娘よ』
笑って弟と一緒に抱きしめてくれた。
温もりは、父とは違って優しさに溢れてた。
これで良かったのかはわからない。
最近、弟のお姉さんかっこいいねと言われると弟に言われ、僕ははじめて笑えた気がした。
僕 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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