日出ずる国のエンジニア ー特殊能力「絶対記憶」を武器にモノ作りの国を駆け抜けるー

若宮 春(わかみや はる)

チャプター1 「絶対記憶」

 俺の名前は高坂 信二(こうさか しんじ)。 1974年生まれの25才。日本人だ。

身長は175cm、体重65kgと日本人男性の平均より若干だが高い。

 容姿について自分ではいたって普通と思っていて、少なくとも不細工ではない。なんというか、、、やっぱり普通だ。 周りからは年齢よりも低く見られることが多く、童顔と言われることもよくある。


 出身は関西で、国宝で世界遺産にも登録されているあの城がある地方都市と言えばわかるだろうか?

 スポーツは中学から大学までずっとバスケットボールをやっていたんだけど、これは某人気バスケットボール漫画の影響ではじめたことで、ようするに恰好つけ。でもそれなりに楽しかったかな。まぁようするに俺はやっぱりどこにでもいる普通の男だ。


 ・・・ある1点だけを除いては・・・


 俺にはとある特殊な能力がある。

 その能力が普通ではないということに気がついたのは、1歳で母親に連れられて保育園に初めて通い出した時のこと。

 両親が共働きだったから、俺は保育園に通うことになったんだけど、俺は保育園が楽しみで楽しみで仕方がなかった。だって初めて家族以外のしかも同い年の子供と遊べると思ったからね。


 胸を期待でいっぱいに膨らませて保育園の1歳の同い年の部屋に入った時には驚いた。なんせみんなほぼ赤ちゃんなんだから。

 そんなん当たり前やろって思うかもしれないけど、俺はそれまで赤ちゃんなんて見たこともなかったし、1歳の子供なんて自分自身以外を知らなかったんだから。


 実は俺は1歳にして歩くどころか走り回り、ひらがなどころか漢字の読み書きもできて、普通に両親と会話ができていた。成長が単に早いというだけじゃなく、俺は見聞きしたもの全てをはっきりと記憶することができる能力を持っていたんだ。

 俺はこの能力のことを勝手に“絶対記憶”と呼んでる。


 俺の特殊能力“絶対記憶”は五感のうち視覚と聴覚について、見聞きしたもの全てを記憶することができるんだけど、みんなはこの特殊能力についてここまでの説明だと、凄い能力だと思うだろうか?

 まぁ、なんでも記憶できるという点については、確かにいろいろ良いかもしれないけど、ちょっと言い方を変えると、“なんでも記憶することができる”は、”忘れることができない”ってことだ。


 ようするに、記憶したくもないものでも勝手に記憶してしまって、思い出したくもない経験や見聞きしたものを、いつまでも忘れることができない。これが結構きつい・・・。


 一度見てしまったものは、何年前のことであっても、いま目の前で起きたことのようにいつまでも脳内に焼き付いてしまう。そんな生活を想像してみてくれ。グロテスクなもの、汚ならしいものなど、忘れ去りたくても忘れられない。心汚い悪口や罵声・救急車のサイレンなど、いつまでも脳内でリプレイし続ける。人は衝撃的な経験をすると、それがトラウマになり長期間にわたってその記憶に悩まされて、ひどい場合にはPTSDという精神障害にまでなってしまうらしいけど、俺にとっては見聞きするもの全てがそんなトラウマみたいになってしまう。


 便利な半面、大変さも分ってもらえただろうか?まぁ、俺はかなり能天気な性格だから、そんなトラウマにも負けず、これまで発狂せずに生きてこられたんだけどね。


 そんな能力を持ってたもんだから、最初に保育園に入った時には、周りの同い年子供たちとのギャップにそりゃあ驚いた。同い年の子たちは話すことはおろか、つかまり立ちもやっとのような子ばかりで、いつも泣いてるし、ご飯の食べ方はきたないしで、俺は一気に保育園が嫌いになった。最初は俺の成長の速さや大人びた言動が悪目立ちしてたんだけど、なるべく他の子に合わせるように行動したおかげで、なんとか変な目で見られずに保育園に通い続けられた。


 諸刃の刃なこの能力だけど、良い方の刃は当然きっちり有効活用させてもらっている。

学校の勉強やテストなんかは、俺にとってはただの作業だ。テストは常に教科書や参考書を見ながらカンニングをしているようなもんだし、資格や検定なんてのも、受験のその日に参考書をペラっと見るだけで合格できるし、お陰様で勉強では苦労したことがなくて、見かけの成績だけはいつも良かった。 このへんだけは“絶対記憶”さまさまだ。


 小学校、中学校、高校と優秀な成績で卒業し、大学は関西の某有名国立大の工学部に入って、自由な校風もあってか在学中は本当に好き勝手に研究させてもらった。

 人によっては「そんなに成績良いなら医学部に行かないの?」なんて言ってくるんだけど、考えて欲しい。俺の能力“絶対記憶”は見たものを忘れられない。医者になれば内臓や血みどろの患者を嫌でも見なければならなくなるだろ?そんなものをいつまでも記憶させたいとは思わない。


 俺はこの能力をフル活用して、学生の間にひたすら学校の図書館や、公立の図書館の本を読み漁った。それだけでなくて、海外の論文も読みあさり、工学だけでなくて、物理や数学、芸術や美術、歴史、小説なんかの本も沢山呼んだ。


 まぁ成績は良かった俺は、卒業前には大学の教授に研究者として残るよう説得されたんだけど断った。なぜなら大学の研究者になっても純粋に研究できる環境を得ることってなかなか難しいし、研究資金を維持するための活動もしなきゃいけない。一方で学生への教鞭もとらないとならないし。正直、学生の方が純粋に自分のやりたい研究だけに没頭できると思っている。そんなこんなで俺は大学に未練は残さず、社会に出ることを選んだ。


 俺は俺の好きな研究開発ができる環境があるだろうと思う会社を探して、先端研究所を持つ大手の電機会社に目をつけた。日本国内最大手の電機メーカーの一つである月座電機(げつざでんき)だ。時代は就職氷河期真っ只中だったけど、俺は教授推薦をもらって、無事にこの会社に入ることができたのだ。1999年4月のことだ。


 こうして俺は希望を持って就職した。エンジニアとしてね。だけどその前途は・・・・。

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