第15話
「あ、あのー……ケイスさん。この人形を7歳のケイリーちゃんにプレゼントしたんですか?」
ジェミーは何処か遠慮するような感じでケイスに訪ねた。
「ああ。ケイリーの奴、ままごと遊びじゃなく、男の子みたいにエイリアン退治ごっこばっかりしてたな。10歳に成ってもずっと持ってたよ、その人形」
「実は言いにくいんですが、この人形は成人男性向けなんです」
「はっ?うそだろ?どう見ても小さい女の子向けじゃないか?」
「この『AIガールフレンドール』は元々、日本の引きこもり男性をターゲットにした商品なんです。『コミニケーションが苦手で、彼女が一生できない貴方のお友達に』というのが、謳い文句でした。ですが『日本人を馬鹿にしてる』とクレームが殺到し、しかも顔がリアル過ぎて日本人の好みに合わず、それで全く売れなかったんです。だから直ぐに製造中止に成りました」
「そうなのか!あっ!だから半額セールの棚に有ったんだ。まあ、娘はめちゃくちゃ喜んで遊んでたから良いじゃないか。ハハッ」
ケイスはスマートフォンに映る人形を見ながら、プレゼントをした日の事や、家族旅行にも人形を連れて行くケイリーの姿を思い返していた。頬が緩み、何処か嬉しそうだ。
その姿を見て、リンナは少し不安が過ぎっていた。
「しかし、あれだな。まさか俺がケイリーにプレゼントした人形をモルティングマンが食べて化けるなんてな。しかも、その人形に化けたモルティングマンが遠く離れた俺と再び出会う確率なんて天文学的数字だろ」
「ケイスさん……ブロンドのあの姿は人形だけの物じゃ有りません」
「えっ?」
「この画像に映る人形の腕や手首には、曲げる為のジョイント部分が見られます。ですがヌードのブロンドにはジョイント部は一切見られませんでした。つまりブロンドのあの姿は、人間と人形が融合したキメラの姿なんです」
「……じゃあ、ブロンドは俺と初めて会った時から既にキメラだったて事か?」
「そうです。ブロンドのあの姿……人形と誰が融合した姿なのでしょうか?」
「……何が言いたい?」
「ケイスさん。レストエリアでケイリーちゃんの幻影を見たと、おっしゃってましたよね?」
「ああ、あれはシケイダを見間違えたんだ」
「シケイダの近くに何か有りませんでした?」
「何か?いや。大きなトラッシュボックス位しかなかったぞ」
「ジェミー!レストハウスに電話して、ハウスの横にトラッシュボックスが置いてあるかを確認して下さい」
ジェミーは慌てて電話をした。会話中何度か「ハイ」「ハイ」と頷く。ケイスは不安を募らせながら返事を待っていた。
礼を言いながらジェミーが電話を切る。
そして、悲しそうな声で結果を伝えた。
「野生の動物が漁りに来るので、外にトラッシュボックスを置くことは無いそうです……」
「……つまり、あの時のトラッシュボックスは、擬態したモルティングマンか?」
「そうです。おそらく尾行していたブロンドです。脱いだ皮は自分でトラッシュボックスの中に入れたのでしょう。そして、トラッシュボックスに変態する前は、ケイリーちゃんの姿だったと思われます。これが何を意味するかは理解できますよね?」
「ブロンドがケイリーに化けれたのなら、ブロンドは俺の娘……ケイリーを……」
「そうです。ケイリーちゃんは人形ごと襲われた可能性が高いです。前にも言いましたが、強いストレスを受けた時の記憶は遺伝子に書き込まれる可能性があります。特に死の恐怖を感じた時など。ケイリーちゃんが死ぬ間際に助けを求めて『パパに会いたい』と強く思ったのなら、その記憶をブロンドが引き継いだのかも知れません。だからケイスさんを執拗に追いかけて来るのではないでしょうか?」
「だとしたら何故、レストエリアの時にトラッシュボックスに化けたんだ!俺に怒られるのが怖くて隠れたのか?」
「私のこの推測が正しければ、ブロンドとシケイダは別個体だった事に成ります。ブロンドとシケイダがどのような関係かは分かりませんが、ブロンドがトラッシュボックスに化けたのは、シケイダが近づいて来たからかも知れません。だとしたらシケイダがあのレストエリアに居た理由は、ブロンドに会う為だったと考えられます。先日、あの丘の上に居たのもケイスさんと対面するのが元々の目的では無く、シケイダ本人が言ってた通り、ブロンドと接触するのが目的だったのではないでしょうか?」
「ブロンドは何かの理由でシケイダから逃げてるって言うのか?そしてシケイダは、ブロンドが追いかけている俺の方にも興味を示したって事か?」
「あくまでも推測ですが。蟻などの社会性昆虫のような一枚岩だと思っていたモルティングメンの集団能力ですが、どうやらそうでも無いのかも知れません。ブロンドが偵察隊なら、こんな目立つ行動はしない筈ですから。他のキメラと比べてもブロンドの行動はかなり異質です。もしかしたら突然変異の反乱分子なのかも知れません。だからといってモルティングマンはモルティングマンなので、変な感情移入は厳禁です。分かってますね、ケイスさん」
「…………」
ケイスは、拳を強く握りしめながら震えていた。怒りと苦しみの感情を押し殺そうとしている。
「正直、ケイスさんには酷な話です。もし、ブロンドが目の前でケイリーちゃんにメタモルフォシスしたら、撃つことを躊躇うはずです。ブロンド退治はヒットガイさんに一任しましょう。次にケイスさんの所に現れてもケイスさんは対応しないで下さい」
「いや!まってくれっ!!その推測が正しければ、ブロンドは娘の仇だ!奴の始末は……決着は必ず俺のこの手でつける!!」
そう言ってケイスは手にしていたアサルトライフルを誰もいない海原に向けた。
海原は遠く、果てしなく、どこまでも、どこまでも青が広がっている。
ケイスはそんな海原の上空を舞う、翼の生えたブロンドの姿を想像し、狙いをすまして引き金を引いた。
想像の中でブロンドが海に向かって落下していく。だが、そのブロンドは墜落途中で泣き叫ぶケイリーの姿に変態した。
ケイスはライフルを力なく砂浜に落とす。
想像の中のブロンドとケイリーは重なり、2つの声で不気味に笑っていた……。
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