第12話
大きなミーティングルームには数名の研究所の所員達が、テーブルの席には座らず立ったまま雑談をしている。会話の内容は勿論、昨日の崖でのケイスとシケイダの遣り取りの件だ。
「どういう事なんでしょう?モルティングマンは環境破壊をする人間を恨んでいるからこそ、街を襲ってたんじゃ無いんですか?」
「分からん。正直、奴との会話が少し噛み合ってなかった。話をはぐらかす素振りも見えたしな……」
「ヨッヨッヨッ。オイラは次に現れる時は、交渉条件を持って来ると思うけどねぇ。奴等も不死身の生物じゃ無いし、敵に襲われずに安心して生きて行ける方を選択するはずさぁ」
「そうだな……けど、『地球が動く』ってセリフが気になるんだよな。何を意味しているのか……」
「お前ら!!スリータイプ以上のモルティングマンを取り逃がしたというのは本当か?!
」
ケイス、ベニー、ジェミーの3人が雑談中に室長のブロックが血相を変えてルーム内に入って来た。そのまま親の
「何で軍まで呼んで撃たなかったっ?!お前は自分がどれほどのミスを犯したか理解できてるかっ?!」
「相手は変態しなかったんだ。1パーセントでも人間の可能性が有るなら撃つわけにいかないだろ?」
「なに甘っちょろい事を言ってんだ!人類の行く末がかかっているんだぞ!怪しい奴は全て消せっ!1人の命を救う為に1000人が死んだら意味ねえだろが!脳筋は算数も出来ねえのか?」
「刈り上げ!お前分かってるか?相手は対話ができた貴重なモルティングマンだぞ。奴等が平和的解決を望んでいるか分からんが、少なくとも奴等の思考が垣間見えただろ」
「奴等が今まで人類にどれだけの被害をもたらしてきた?!今更平和的解決なんか願い下げだ!奴等を問答無用で絶滅させるしか選択肢は無い!国も逃げ遅れた人間は諦めて、とっとと空爆を行なっていたら、奴等が此れ程のさばる事も無かったんだ!」
「ああ、そうかよ。分かった、分かった。今度からは問答無用でぶっ殺すよ。お前が殺される方の立場に立っても同じセリフが吐けるか
「だいたい何でお前がその場の指揮をしていた?軍に任せりゃ良かったんだよ!元警察ごときが、でしゃばる場面じゃないだろ!」
「指揮は私の権限でケイスさんにお任せしました」
ブロックに続いてリンナと副所長のダンがルーム内に入って来た。この3人が西海岸生物科学研究所内で、モルティングマンを研究するチームリーダー達だ。
「ああ、そうですか。大統領直属の殺し屋さんの御命令なら仕方ないな」
ブロックはリンナに嫌味っぽく返した後、後ろの副所長のダンにも睨めつけるような視線を送った。
ダンはブロックとは対照的な落ち着いた中年男性だ。ブロックの態度を見ても「またか」という感じでニヒルに笑っている。
ダンとブロックは昔から犬猿の仲らしく、現在互いにモルティングマンの研究をしているにも拘らず、協力して行う事は全く無いという。
「ん?大統領?やけに軍と仲良しだとは思ってたが、まさかリンナは大統領の命令でココに派遣されたのか?」
「まだケイスさんには言ってませんでしたね。機密事項なので御内密に」
「こんにちは、ケイス君。挨拶がまだだったな。副所長のダニエル・ボダックだ。ダンと呼んでくれ。リンナ博士から今回の件は聞いている。わたしも、そのシケイダ及びブロンドと言う2つの個体には興味がある。是非、一緒にこれからの対応作を考えようじゃないか」
「ああ、よろしく」
挨拶してきたダンにケイスは握手をしようと手を差し出したが、ダンの右手の指に絆創膏が巻かれているのに気付き、躊躇した。
「血が滲んでるじゃないか!けっこう最近の傷だな。実験中に切ったのか?」
「いや。実はわたしのロッカーの取っ手に誰かが剃刀を仕込んだんだ。知らずに触って切ってしまった」
「はあ?誰だよ!そんな悪質な悪戯する奴。犯人に心当たりは有るのか?」
「さあ?誰だろうな……」
ダンは意味有りげに薄笑いを浮かべ、横目でチラッとブロックを見た。
「ああ、そういう事か。あいつ、友達はコウモリしか居ねえだろ?」
「彼は人間不信から心が病み、ノイローゼに成っている。モルティングマンの研究をしてるから無理もないんだ。わたしだってココに居る誰かが、いつの間にかモルティングマンにすり替わってないか毎日不安で仕方ない。実はモルティングマンに破壊された街の死亡者の5分の1が、疑心暗鬼を生じた人間同士の殺し合いなんだ」
「…………」
ケイスは想像した。目の前のダンの顔がいきなり割れ、中からモンスターが現れる姿を。もし、この距離から襲われたら逃げるのは不可能だろう。襲われた街の人々は、そんな擬態をするモンスターを突然大量に目にしたのだ。パニックに成るのは当然だろう。このままでは人間通しの信頼関係は失っていき、団結力が無くなってしまう。人間の方にも統率力のあるリーダーが必要だ。世界中の人間を引きつける、強くて頼もしい魅力的なリーダーが……。
「ケイスさん。会議を初めます」
考え事をしているケイスに、リンナは着席するように促した。
テーブルを囲むように、リンナ、ダン、ブロックのそれぞれの班に別れて座る。
全員が着席すると正面の大きなスクリーンには、レンジャー隊員が隠し撮りしていたシケイダの姿が映し出された。
「これが昨日ケイスさんと接触したスリータイプ以上と思われるモルティングマン、自称シケイダです。皆様は既に送ったメールをお読みだと思いますので、詳細は省きます。ここでは極秘の追加情報だけ述べさせていただきます。まず、先程海軍の方から報告が有りました。あの時、シケイダの方角から例の謎の音波をキャッチしていたそうです」
「どういう事だ?奴は会話中に、俺らには聞こえない超音波を別に発していたのか?」
「そういう事です。シケイダはキメラです。衣服で隠れて見えませんでしたが、体の何処かに、もう一つ口が有ったのかも知れません。或いは体内に超音波を発する器官が備わっていても、何ら不思議では有りません」
「すると俺と会話しながら仲間とも会話してたのか……そうか!仲間が近くに居て、呼び寄せてたか?」
「可能性は有ります。あの時、もし誰かが発砲していたならば、海から大勢のモルティングマンが現れ、あの場に居た隊は全滅していたかも知れません。だとしたらケイスさんの行動は結果的に正解だったと言えます」
「へっ!取ってつけたような後付の言い訳だな」
ブロックは鼻で笑いながら、オーバーアクションで手を広げた。
それを見てもリンナは意に介さず、淡々と話を進める。
「ケイスさん。ダン教授から御質問が有るそうです。宜しいですか?」
「勿論。何だよ改まって?」
「ああ、ケイス君すまない。実はプライバシーに関わる質問なんだ。構わないかな?」
「何だよ?スリーサイズを教えろってなら、お断りだぜ」
「いや、そんな質問じゃない。もっと変な質問だと思うかも知れないが……君、特殊な能力を隠してないか?」
「ん?特殊な能力?」
「そう。例えばテレパシーやテレポーテーションみたいな超能力だ。科学では解明できないような力を持ってないかと思ってね」
「悪いがそんな有り難い能力が有るなら、とっくに奴等を全滅させてるよ」
「では、家族にそんな能力を持つ者に心当たりは?」
「家族?あっ!そうだ、娘のケイリーなら持ってるぞ!あいつは俺がプレゼントやお菓子を買って帰る日は、なぜか察して玄関で待ち伏せしてるんだ。逆に悪戯が過ぎるので怒ってやろうと思った日はクローゼットに隠れてやがる。あれは確かに予知能力だ。なんせ自称『魔法少女』だからな。ハッハッハ……って、何でそんな馬鹿らしい質問するんだ?こんな真面目な会議で?」
「いや、無いなら良いんだ。実はシケイダやブロンドが君に興味がある理由を考察していたんだ。そこでモルティングマンを引きつけるような特別な力が有るのかも知れないと思ったんだよ。いや、失礼した」
「なるほどね。そうか、シケイダとブロンドが俺に興味を示す理由か……」
「ヨッヨッヨッ、兄さんが男前だからだよ。きっとモルティングマン界ではモデル級のイケメンなんだよぉ」
「
そう言いながらケイスはベニーをコツいた。
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