The Loot Box Monster〜Molting-man(モルティングマン)〜

押見五六三

第一部 迎え来る者

プロローグ

 その少女はまるで餌を待つ雛鳥のように、玄関先を落ち着かない様子でウロウロしていた。少女が何気に「もしもお空を自由に飛べたなら、お迎えに行けるのになー」と、心の中で呟いた瞬間、扉は初夏の薫風くんぷうを招き入れながら勢いよく開く。


「おー!ケイリー!待たせたな!ほーら、お待ちかねのプレゼントだ!」


「ワーオッ!ありがとう、パパ!」 


 玄関先で待ち構えていた少女は、父親からラッピングされた大きな袋を手渡されると、そのまま満面の笑みでリビングまで駆けて行き、そして袋を抱きかかえながらリビング内を所狭しとはしゃぎ回った。

 そのリビング中央のテーブルには、7本のロウソクが刺さったデコレーションケーキが置かれていて、少女の母親がケーキの周りに出来たばかりのご馳走を次々と並べている。

 本日はこの少女の誕生日バースデーだ。

 遅れて父親もリビング内にやって来ると、少女は意味有りげな含み笑いをしながら、オーバーオールのポケットに手を突っ込んだ。


「パパ!これお返しのプレゼント!エイリアンよ。さっき、お庭で見つけたの!」


「エイリアン?」


「そうなのっ!地球を侵略に来たのかもしれないわぁ!でも、今はお昼寝中みたいで動かないの。もしかしたらノゾミさんの催眠魔法ヒプノティックマジックに掛かったのかしら?」


 そう言いながら少女はポケットから小さな茶色い物体を取り出すと、壊れないよう恐る恐る父親に手渡した。枯れ葉のように乾燥したそれはパーツの所々が欠けていて、背中部分がパックリ割れているのが印象的だった。

 一見不気味に映るその物体の正体は――


「ああ、違う。エイリアンじゃない。これはシケイダの抜け殻。空蝉エンプティシケイダだ」


シケイダ?」


「そうだよ。ほら、夏に成ると木から音が聞こえるだろ。あれは、この抜け殻に入っていた蝉という虫が鳴いてるのさ。蝉は子供の頃はこの姿で長い期間、地中で暮らすんだ。そして大人に成ったら恋をする為に地中から出てくる。その時、恋する相手を探す為に背中に翼を持つんだ。これは大人に変身する為、恋人探しの翼を持つ為に脱いだ皮なんだ。あの変な音も実はラブソングなんだよ」


「大人に成ったら恋する為に翼が生えるの?ワーオッ!凄くロマンチックだわ。ケイリーも大人に成ったら翼が生える?」


「残念だけど人間は大人に成っても翼は生えない。ほら、パパの背中には翼が無いだろ?」


「えーーー!つまんない。翼が無いと好きな人を探しに行けないじゃなーい」


「大丈夫だよ。人間は大人に成ったら飛行機や車に乗って愛しい人を探しにいけるさ」


「ケイリーは翼がいいなぁ……そうだ!ケーキのロウソクを一息で消せたら、神様がお願いを聞いてくれるんでしょ?『お空を自由に飛びたいから翼をください』って、神様にお祈りしてみるわぁ」


「無理だよ!神様も出来る事と出来ない事が有る。それより袋を開けなくていいのかい?」


「今、開けていいの?」


「ああ、勿論だ」


「やったー!!」


 ラッピング袋のリボンを解き、中に入っていた物を取り出すと、少女は再び歓喜の叫び声をあげた。


「ワーオッ!ワーオッ!なんて可愛いお人形さんなのッ!!ステキー!」


「お話も出来るんだぜ!凄いだろ!」


 それは綺麗な瞳の人形だった。人形には音声認識機能が搭載されており、学習機能も備わっている。少女はさっそく言葉を覚えさす事にした。


「マイネームイズ、ケイリー!覚えた?」


「ハロー、ケイリー」


「ワーオッ!覚えてくれたわ。何て賢い子なのッ!」


 少女は薄金色の髪を優しく撫でながら、新しい友達との会話を続けた。人形の方も心よく言葉を待ち受ける。


「あなたに名前が必要ね。そうねー……何て名前が良いかしら?うーん……そうだ!決めたわ!今日から、あなたのお名前は――」

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