年齢と共に強かさが上がるのが女というもの
久しぶりに地元へと帰り、パーティー会場でドリンクをたしなむ。
高校生の時の面影のあるクラスメイトが歓談しており、どこか懐かしさがあった。けれど、誰も俺に近づこうとはしないし、俺も誰にも近づかない。
白鯨をいじめていた張本人は粟谷だ。けれど、それを見て見ぬふりをしたのは、クラス全員である。
最終的に彼を庇ってクラス中を糾弾した俺を腫れもの扱いするのも当然だろう。
「あは、ホントに来てくれたんだー!!」
「粟谷……。久しぶりだな。」
皮肉を込めてそういうと、またけらけらと笑う。
高校生の時とは違い、神をくすんだ金色に染めている。おそらくパーマも当てているのだろう。ふわりとした毛先を弄びながら、俺を会場の外へと呼び出した。
「電話でも言ったけどさ、私達もう一回付き合ない?」
「断る。そもそも、いまさらどうして?」
告白してきたのは向こうからだった。最初は遊び半分かと思ったが、案外俺のことをよく見ていたようで、いつも隣で楽しそうに笑っていたのを覚えている。
たしかにわがままな性格ではあったが、あの時の俺は、彼女がいじめをするような女だと見抜けなかったのだ。
「量くんてさ、昔から合理的だよね。だから好きになったんだけど。」
「ちょっとおだてられたぐらいでなびくとでも?」
「ねぇ、あの娘とはどういう関係?彼女にしては若すぎるよね」
「お前には関係ないだろう。それより、写真、消してくれないか?」
「答えてくれないと消さないから。それとも、ホントにやましい関係だったり?」
くだらない脅しだ。
相手にする気力もわかない。
派手で横暴な性格とは裏腹に、この女もまた合理主義。しいて言うならば、俺とは違って取り繕うことを知っていて、なおかつ非合理に飲まれる方法も知っている。
今でこそ、悠のおかげで非合理との上手な付き合い方を学んだが、高校時代の俺はそうでは無かった。損得で友達を選び、非合理への憧れすらない。無意味無価値をひどく嫌っていた。
若気の至りと言えばそれまでだが、だからこそ、白鯨へのいじめにも気づけなかったのだ。
「量くん、分かるでしょ?私とあなたはとても似ている。理のためなら平気で感情を捨てられる人間。その本質は今も変わってないんでしょ?だからブタ男を連れてこなかった。」
「やめろ。いまさらよりを戻す気はない。」
「あの高校生ちゃん、調べようと思えば調べられるけど?」
俺の頭の中で何かが弾ける。
「あの娘に手を出したら、許さないからな!!」
「……びっくりした。量くん、人のために怒れるんだ。私のためには怒ってくれなかったのに?」
粟谷の笑顔は素直に魅力的だと思っていたが、ときたま見せる見透かしたような冷たい目つきだけはどうにも苦手だった。
「写真は消してあげる。そのかわり、一回デートしてくれない?」
「断ったら?」
「ブタ男が酷い目に合う。もしかしたら、捕まっちゃうかも。」
ここは、大人しく従うほかないだろう。
つくづく狡猾でわがままで、ひどい合理性を持った女だ。
……to be continued
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