料理のレパートリーの秘密、お教えしましょうか?
ある日の夕方。
「ただいま帰りましたー。」
「んあ、おかえりー。あー、寝てたのか…。」
仕事を休み始めてから、一週間が経った。花寺や陰山から何度か連絡が来ることはあったが、仕事関係の話は一切していない。
引き継ぎ関係で連絡が来るかと思っていたが、陰山曰く専務や部長、鞍井が俺の悪評を広めているらしい。さらに言えば、そもそも、俺の仕事を引き継ぎたいという殊勝な奴が居ないのだろう。
期日が近くなって焦り始めた時、どうなるのかが楽しみだ。
「そんなふうに考えるあたり、俺も性格が悪いなぁ。」
「まぁ、それだけの事をされてきましたからね。」
ソファに寝転んでいた俺を優しく抱きしめたかと思えば、すぐに離してキッチンの方へ向かってしまう。仕事を辞めてから悠のスキンシップが多くなった気がする。
いやな気はしないが、時たま恥ずかしさに襲われることがあるので控えてほしい。
……嘘だが。
悠は自分の部屋に戻ったかと思うと、スマホ片手に冷蔵庫の前に立っている、
「何見てるの?」
「レシピサイトです。あとは、いろんなブログとか。メニューの参考にしようと思って。」
「おお、これ美味そうだな!!」
可愛らしい丸文字でタイトルが表示されており、簡単にできる冷凍食品のアレンジレシピから、本格インドカレーの作り方まで載っている。ブログを書いているのは、普通の主婦らしい。いや、どんな主婦だよ。
「パスタのアレンジはこのサイトを参考にしたんですよ。」
そういってスマホを操作すると、麺類を中心としたレシピページに飛ぶ。チャーハンに細かく刻んだパスタを入れたものやトマト冷麺など見覚えのあるメニューが載せられていた。
「へぇ。しばらくパスタは勘弁だけど、カルボナーラとかは魅力的だなぁ。」
「うーん。私牛乳苦手なんで、作るかは微妙ですね……。」
「あ、そうだったの!?」
たしかに、前回ハンバーグを作った時も使いきりサイズだったし、シチューやカルボナーラといった牛乳を使った料理が出てきたことはなかった。
「牛乳かぁ、味が苦手とか?」
「いえ、牛乳とか魚の骨とか、成長や発育にいいものを食べるように言われてきたので……。俗説だといわれ始めてからは、無くなりましたけど。」
あの父親のモラハラにうんざりした表情を浮かべると、悠も苦笑いをする。
「そんなことより、ご飯食べましょうよ。今日は何がいいですか?」
「んー。ゴーヤチャンプルーがいいなぁ。」
「ゴーヤがありません。」
冷蔵庫を開けて中身を確認する。肉や魚が並んではいるが、野菜の種類は少ない。そういえば、ここ一週間で外出をした覚えがなく、悠も学校があるため買い物に行けなかったのだ。
「じゃあ、お肉の気分です。」
「わかりました。照り焼きと南蛮どっちがいいですか?」
鳥のもも肉を手に取りながら首をかしげる。なんとなく弁当屋の南蛮チキンの味が恋しくなったので、そちらにしておいた。
「今回はシンプルな味付けにしてみましたけど、甘辛くしてもおいしそうですよね。」
「ああ、ありかもな。楽しみにしてる。」
……to be continued
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