ここからはショート的な話が続きます。っていうか、当初描きたかった話です。
習慣というものは恐ろしいもので、なかなか抜けない。
アラームに起こされ、眠い目をこすりながらリビングに向かう。
すでに悠が朝食の準備を進めており、テーブルには醤油で味付けされたスクランブルエッグとソーセージ、そしてホカホカと湯気を立たせる白ご飯。
「いただきます。」
「あ、はい。」
心なしかいつもより少ない朝食を胃に収めて洗面台に向かう。顔を洗って鏡を見上げると、ひどい顔をしていた。たしか、残している案件のうちいくつかは陰山に割り振るつもりだったはずだ。
クライアントとデータ称号も済んでいない奴もあったような気もする……?
「……りさん」
鞍井からもらう予定の仕事、部長が投げてくるであろう期日の少ない仕事。
そういえば花寺が担当していた仕事は、今日会議が入っていたので、手伝う必要がありそうだ。ということはそれに付随して、資料の作成とデータの整合性チェック……
「量さん!!」
あ、帝泉の案件で取れそうなものがあったから、営業先に行って、見積もりの提示をすることも考えていたんだ。ということは、追加で作成するデータが増えたな。
「量さん!!お仕事、行かなくていいんですよ!?」
「あ、ああ。うん?」
玄関で靴を履こうとしていると、悠が肩を掴んで止めてくる。
彼女の驚いた眼にまっすぐ見つめられ、おとといの出来事を思い出した。専務に事実上の首を告げられた後、すぐに辞めるというわけにもいかないので給食という立場をとっていたのだ。
せっかく仕事に行かなくていいというにもかかわらず、習慣化した日常のせいで出社の準備を整えてしまっていた。悠に止められなければ、普段通り出社して白眼視されていたことだろう。
「危なかったぁ……。」
「びっくりしましたよ。てっきりお休みの日みたいに、昼ぐらいまで寝てるかと思ったら、急に起きてきて私の朝食を食べきっちゃったんですもの。」
「いや、言ってくれよ……。全然気づいてなかった。」
道理で少ないと思ったわけだ。
「じゃあ、私は学校行ってきますけど、一人で大丈夫ですか?」
「俺は子供かよ。大丈夫に決まってるだろ。行ってらっしゃい。」
悠に対して『いってらっしゃい』を言うのは多分初めてだろう。
いや、たぶん、だれかに『いってらっしゃい』を言った経験すらない。何もかもの初めてだらけの生活だ。けれど、彼女がそばにいてくれるなら怖くない。
「一人か……。たしか、二か月ぶりぐらいか。」
たぶん、俺が一人になってしまうことを見越してか、すでに掃除や洗濯は済まされているようだ。特別やることもなく自室に戻るとゲームを起動する。
平日の昼間からゲームをやるなんて、社会人としあるまじき行為だ。
けれど、今の俺は社会人じゃない。大人じゃない。
ただ一人の人間だった。
……to be continued
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