自称有能プログラマーのワイ、ブラック上司から無能認定されクビを宣告されるもノーダメージ。家に帰れば巨乳美少女JKが全肯定してくれます!!
いつもは動じない社畜だって、心はあるしメンタルブレイクもする。だから、癒しが欲しい。
いつもは動じない社畜だって、心はあるしメンタルブレイクもする。だから、癒しが欲しい。
『今日はゲームできそうでござるか?新イベント始まるぞよ。』
出社してすぐに一通のメッセージが届く。あの不摂生な友人、白鯨からの連絡だ。
白鯨は、日中のほとんどを寝て過ごしているため、昼夜逆転した生活を送っている。会社員が働き始めるころに寝て、帰る頃になると、仕事を始めたり夜通しゲームをしたりと、型に囚われない生活をしているのだ。実質引きこもりであるが、なんだかんだイイ奴であり、仕事の納期に遅れたことはない。
俺もたまに手におえない案件を頼むことがあるが、望んだクオリティ以上で返してくれるので、仕事仲間としても信頼している相手だ。なにより、引きこもっている謝罪として、母親の買い物に必ず付き従う彼を羨ましいと思ってしまっている。
『今日からか…。俺が行くまでクリアするなよ。』
『b』
昨日少し仕事を進めていたおかげで、今日の作業量はいつもより少ない。悠とゆっくり夕食を食べてからでも十分ゲームは出来るだろう。むしろ、白鯨と三人でやってもいい。
彼女を引き取ってから、何かを楽しみにすることが増えた。白鯨と遊ぶことも、一番効率的な友達付き合いだと割り切っていたが、悠が隣にいてくれるだけで、純粋に楽しめるようになった。なにより、仕事よりも夕食を楽しみにするようになったのは、社会人になってから初めての出来事だ。
今日は帰ってからのお楽しみだと言われている。二日続けてオムライスということはないだろう。悠が作った肉じゃがが食べたいが、煮物をするための鍋がない。魚料理は一昨日食べたし…。
「虹村、お前暇そうだな。こっちの案件頼んでいいか?」
突然向かい側のデスクから話しかけられる。三枚程度の書類を手渡され、断ろうかと思案していると、逃げるように外回りに行ってしまう。納期は…一週間後。
コーディングという時間のかかる仕事であるため、今すぐにでも取り掛かりたい案件だ。
「虹村!!東洋のデバックいつまで掛かってんだ!?」
「部長…。あれって納期来月ですよね。」
「口答えすんな!!罰として今日中に終わらせろよ。」
なんの罰だよ…。とは思っていても口に出せない。
「またやってるよ。」「言い返さないのダサ…。」「僕ちん仕事できるからヨユーでしょ。」
あちらこちらから聞こえてくる陰口に嫌気がさしながらも、手を動かす。隣で花寺が悲痛な顔を浮かべていた。今ここで俺を庇えば、不利になるのは彼女だ。
「虹村サーン。先週の案件、明日までって行けますー?」
「は、納期短縮になったのか!?安請け合いするなっていつも言ってるじゃないか!!」
へらへらとした様子で取引先から帰ってきた鞍井に思わず怒鳴った。だが、全く応えた様子も無く飄々とした態度を崩さぬままに、耳元で囁いた。
「もうちょいで、向こうの娘落とせそうなんすよ。仕事できると思われた方が良いなぁと思ったんで、おなしゃーす。」
彼の軟派な性格をいさめるつもりはない。だが、必ずと言っていいほど、そのしわ寄せは俺に向かってくるのだ。誰も、社長の息子である彼に言い返せない。
さっきまで悪口で盛り上がっていた奴らも、見て見ぬふりを決め込み始め、あたかも自分の仕事に集中しているふりをする。部長もわざとらしい様子でトイレに行った。
「マジか…。」
「どれか手伝おうか?」
花寺が気にかけてくれるが、彼女は俺と同じぐらい忙しい。というのも、仕事のできない部長に変わってほとんどの案件を請け負っているからだ。それもこれも、出世するために耐えているということを知っている俺としては、これ以上彼女に迷惑を掛けることは出来ない。
「大丈夫だ。そっちの仕事、時間かかるだろう。」
「ほんとに悪い…。いつか、私が重役になったら必ず改善するから!!」
出来もしない妄言を口にするのはいつものことだった。彼女の無駄な努力を応援する気にもなれず、わざと無視して仕事を進める。花寺が出世する前に、俺がクビになる方が早いだろう。
(量さん。そんな風に荒んだ考え方しちゃダメですよ。)
ふと、悠の声が聞こえた気がした。
吐き出しかけたため息を飲み込んで、マグカップに入ったコーヒーを一気に飲み干す。熱い感触が喉を伝わって火傷しそうになるが、それ以上に清々しさが勝った。
時計が回り、音を立てるたびに焦燥感だけが高まっていく。どうにも作業の順番を間違えているような感覚に陥るが、これが正しいのだと必死に言い聞かせながら手を進める。18時を過ぎてほとんどの社員たちが帰っていく。花寺も用事があるらしく早々と帰っていった。
期限の近いものから順番に仕事を終わらせるが、次から次へと増えていく。頭の中を駆け巡るのは部長の怒号、同僚の陰口や罵声、鞍井の軽い声、花寺の妄言。
省エネという名目で薄暗がりになったオフィスで虚しい打鍵音が響く。
「悠……。」
スマホに表示されている『お仕事頑張ってください』というメッセージだけが、今の俺を支える柱だった。垂らされて一本の糸に縋っている気分。
「終わった……。帰らなきゃ…。」
ふらふらとした足取りで、終電が無くなった帰路を歩く。スーツを着た男たちが、肩を組みながら大声で笑っていた。どうして、俺はああなれなかったのだろうか。
「どこで…間違えた。」
焼けるように痛む目をこすりながら家のカギを開ける。真っ暗な室内を、悠を起こさないように足音を殺して歩く。テーブルに置かれたペペロンチーノと励ましのメッセージに思わず涙がこぼれそうになった。
「量さん。おかえりなさい。」
「ただいま…。悠。」
両手を広げる彼女にゆっくりと近づく。子供のように彼女に抱き着くと、力強く頭を抱きしめられた。
柔らかく、温かい。
「お仕事、大変ですね。」
「大変だった。」
「量さんは、いつも頑張ってますよ。」
「うん。頑張ってる。」
「大丈夫。私はいつも見ていますから。」
「ずっと、傍にいてくれる?」
「ずっと、傍に居させてください。」
これは毒だ。
非合理の猛毒。食虫植物が虫を逃がさないための甘い蜜なのだ。
彼女の優しさにおぼれて死ねるなら、それでいい。
……to be continued
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