自称有能プログラマーのワイ、ブラック上司から無能認定されクビを宣告されるもノーダメージ。家に帰れば巨乳美少女JKが全肯定してくれます!!

平光翠

自称有能プログラマーが使いつぶされるだけの話

第一話にして母の死とかいう重めの設定が出てきました。まだ全肯定される予定はないです。

 上司の罵声が頭に響く。睡眠不足の脳を揺らす男の声がさらに不快感を募らせた。


「虹村!!昨日言ったリファクタリング、まだ終わってねぇのか!!」

「すいません。」


 20年以上前のコードで、初めて見たプログラミング言語のリファクタリング修正作業なんて、一日で終わるわけがない。この上司もそれを理解しているはずなのに、嫌がらせで言ってるのだ。


「あとどんぐらいんでおわるんだ!!」

「あー、二時間で終わらせます。」

「バカ野郎!!急ぎの案件じゃないんだから、他のことを優先しろぉ!!」


 ああ、めんどくせえ。結局何をやっても怒られるのだ。


「虹村さん、お電話入ってます。どこかの病院かららしいですけど…?」

「…?」


 この繁忙期の中、一体どこの病院が電話をかけてきたのだろうか?健康診断の結果なら、つい三か月前に受け取ったばかりで、すこし体脂肪率が高いと警告されただけだったのに。


虹村ニジムラハカリ様でしょうか?〇〇中央病院の者です。」

 少し低く、聞き覚えの無い声。発言の中に後ろめたさの見える医者の様子に困惑しながらも、俺は名乗り返した。


「はい、虹村です。何か御用ですか?」

「非常に申し上げにくいのですが……」


 続けた医者の言葉に、返す言葉が見つからず、呆然と立ち尽くしていた。




「虹村ァ!!あの案件どうなってる?」

「虹村さんなら帰りましたよ。お母さまが亡くなったそうです。」




 〇〇中央病院は、自宅からも会社からも遠く、取引先に伺うときに遠目で眺める程度だった。院内は異常なまでに清潔で、いつも通院している古い病院では見かけたこともないような最新機器が立ち並んでいた。

 案内の掲示板や診察券の発券システムの中に、会社のロゴマークが残されていて、少しいやな気分に陥ったが、これから起こることに比べればどうってことないだろう。


 受付に名前をいうと、うっそうとした顔の看護師が霊安室へと案内する。


「室内では、お顔を拝見して確認した後、すぐに出てください。」


 無表情で告げる看護師に苛立ちを感じたが、あとで聞いた話によると、病院の霊安室での遺体面会は本来はやってはいけないことらしい。


 室内には、警官と医師、そして場違いな女子高生がたたずんでいた。

 部屋の中の誰よりも虚ろな顔をしており、まるで能面でもつけているかのようだ。背丈の後ろ姿の印象から女子高生だと判断したが、新品のように真新しく、始めて着たかのようなぎこちなさだ。


「お母さまで間違いないですか?念のため、この方のお名前を読んでください。」

「……母です。虹村安子です。」


 警官と医師が目を伏せて、母の顔に布をかぶせ直す。隣に寝かせられた男には見覚えがないが、察するに女子高生の父親で、俺の母親の恋人なのだろう。


「こちらのかたは、お母さまと婚約関係にあった男性です。お二人が車で走行中トラックと正面衝突し、残念ながら事故に遭ってしまいました。原因は男性の不注意でしたが…」


 警官の自己説明や、医者の死因の説明、死亡届に必要事項を書くことすら呆けたまま済ませる。母が死んだことに驚きは抱いたが、悲しみは感じない。死者を悪く言いたくはないが、碌でもない母親だった。


 性行為依存症で、常に男にまたがっていないと気が済まないアバズレ。幼いころから、息子の前でも平気で男とまぐわるような母親を尊敬できるわけがなく。

 男に媚びることしか考えていないクズ女と、蔑んでいた。ずっと。物心ついてから今の今まで。


「私、全日本児童健全育成委員会の笛無フエムというものです。こちらのお嬢様は、お母さまの恋人のイズミ康則ヤスノリ氏の娘さんなんですけども…。」


 気が付いた時には自宅のマンションに帰っていて、いつ招いたか覚えもないスーツの女が名刺を差し出していた。社会人の反射で受けとって名刺交換を済ませたが、普通に考えて必要はなかっただろう。


「単刀直入に言いますと、イズミハルカさんの身元引受人が虹村さんしかいないという状況になります。」

「えっと、母と泉さんは籍を入れていないと聞きましたが…?」


 法律に詳しい訳ではないが、婚約関係であって、夫婦ではない以上、俺とこの女子高生の間には何のつながりもないはずだ。身元引受人としては不適格であると思うが…。

 だが、笛無の言葉は日本の闇に触れるようなものだった。


「正直言いますと、どの養護施設でも手がいっぱいの状況でして…。放棄児童が増える一方でありながら、里親制度の浸透率が低くてですね。また、この年代の娘ですと非常にデリケートになりますので、ほとんどの施設が引き受け拒否をしてしまうのですよ。」


 忙しさにかまけて選挙に行けない俺が文句を言う筋合いはないが、政治家さんたちはもう少し少子化問題や待機児童問題に力を入れてほしい。


 正直、年ごろの女子高生を住まわせるなんて、リスクしかないし、何のためにもならないことはわかっている。だが、あの能面のような目つきでこちらを見られて、彼女を捨てるようなことが出来るわけがなかった。

 あの諦めたような見覚えのある目つきは……まさに幼少期の俺のようではないか。


 だとするならば、ひどくおこがましいという自覚を持った上で言うが、

『彼女を救いたい』そんな風に感じてしまった。


「わかりました。引き取ります。お手数おかけしました。」


 彼女を引き取った翌日、母の葬儀が行われた。俺の祖父母(母の両親)もすでに死んでしまっている。わざわざ彼女の葬儀に来るような者はいないと思い、身内葬をしたが、母の元恋人を名乗る男が数名来たのには不覚にも笑ってしまった。


 みんながみんな、ばつの悪そうな顔をして、香典を置いて少し手を合わせたかと思うと、逃げ出すようにそそくさと帰ってしまう。

 一応喪主ということにはなっているが、急なことでまともな準備もできなかった。


 遺体を焼くとなっても、何の実感もわかず、母との思い出一つ湧いてこない。

 そのあとすぐに女子高生…泉家の葬儀も執り行ったが、むこうからすれば俺はほぼ他人であるため、居心地が悪いことこの上なかった。


 彼女の父親は家族内でも嫌われていたらしく、悠に同情的に接する者はいても、彼女を引き取りたいという親戚は居なかった。彼女が所在を聞かれ、俺に引き取られたと話すたびにみんなが安堵している。誰だって愛嬌の無い能面女を引き取るのは御免被りたいのだろう。

 結局、あの娘も俺と一緒で孤独の身であると思うと、途端に同情心が湧いてくる。


「俺のことは、兄貴だなんて思わなくていい。あくまで他人だ。そっちの部屋は自由にしていいから。じゃ、お互いいい生活にしよう。わかるな?」

「はい、大丈夫です。なにからなにまでありがとうございます。」


 救いたいなどと語っておきながら、本心ではどうでもいいと思っているのだ。また、明日からは仕事だ。面倒な女子高生に関わっている暇はない。


 …to be continued

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