『ルンバ』『魔王』『名前』


ミノルが面白いものがあるというので、俺とハジメは橋岡家に来ていた。


「ふっふっふっ……よく来てくれたっすね!」

「いやまあ、帰りに寄ってけって言われたらなぁ」

「そうだな」

「ちょっと、気にならないんすか!?」

「いや何を」

「別に」


来いって言われただけで、何も言われてないんですが……。

俺たちがそう答えると、ミノルはぶんぶんと手を振り回しながら抗議してきた。


「うちの子に会いたくないんすか! もう!」

「うちの子ってなんだよ」

「ペットでも新しく飼い始めたんじゃないか」

「まあ、そんな感じっす」


ハジメの言葉にうんうんと頷くミノル。すると、突然「ちょっと待っててくださいっす」と言い残すと、部屋から出て行ってしまった。


「なにが来るか予想するか」


待ってる間暇だったので、そう提案する。ハジメはこくりと一度頷くと、顎に手をやりうーむと考え始めた。


「ミノルのことだから、無難に犬とかか……?」

「俺的には、なんかかっこいいっす! とか言って蛇とかトカゲとか持ってくると予想」

「お前はミノルにどんなイメージを持ってんだよ……」


ハジメが呆れたような目でこちらを見てくるが、いやいやいやと首を横に振る。分かってない、全然分かってない。


「こういうのは意外なのが来るんだよ。犬とか猫とか、定番すぎるだろ」

「いや、それ漫画とかの話だろうが」

「お待たせしましたっすー!」


さて、何を連れてきたのかなと思いながら振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべるミノルの姿と……ルンバがあった。


「ハジメさんハジメさん、俺にはそこにミノルとルンバしか見えないんだが、俺おかしい?」

「いや、お前は元からおかしいが、この場合はミノルの方がおかしい」


なんかサラッとディスられた。いやまあ、心当たりはあるんですけども……。


「んで、ミノルが見せたかったのってそれ?」

「そうっす! 可愛いっすよね!」


おいこら、こっち見んな。お前が聞いたことだろうが。

まさかはっきりと肯定されるとは思ってなかったらしく、お前もなんか言えよと目で訴えかけてきやがった。


「あ、あー……、な、名前なんて言うの?」

「……? ルンバはルンバっすよ、ノボルの家では機械に名前つけてるんすか?」


なんでだよ。なんでそこだけ一般的思考なんだよ。あとそこ、笑うな、指さすな、殴ってやろうか。

怒りと羞恥に染まった目でハジメのやろうを睨みつけていると、ミノルが突然床にプラスチックの小さい玉を置いていく。そして、それなりの数を置き終えると、元の位置に戻ってこちらを向いてふふんと笑った。


「見ててくださいね、うちのルンバの仕事風景を!」


ふんすっと意気込むと、ルンバを床に置いて上の面にあるボタンを押した。すると、少しの間を置いて機械音を発しながら動き出した。


「見てください! 食べてるっすよ!!」

「あ、うん……食べて……るのか?」


分からん。どう答えるのが正解なのか分からず、ハジメの方へ助けを求める。ハジメは俺の目を見て全てを察したのか、任せろと一つ頷いた。


「ピロリロリン、ルンバ は レベル が 上がった」

「え、急にどうしたんすか!?」

「こうして、ルンバの長い戦いが始まったのであった」

「何と戦うんすか……」


何とって……何とだろう。そこまで考えてなかったと、首を傾げてうーむと呻く。


「魔王とかでいいだろ」

「確かに」

「いや、ルンバに魔王を倒せるような機能はないっすよ」

「『ふへへへ、魔王ごと世界を掃除してやるぜ!』」

「それ、悪役のセリフなんじゃ……」

「ピロリロリン、ルンバ は 『勇者の覇道』 の 称号 を 手に入れた」

「称号まで悪役風に……」


なんか壮大な話になってしまった……。


「ってか、ルンバに魔王を倒せるような機能はないだろ」

「それ、俺が最初に言ったっすよね!?」


ミノルがギャンギャン喚いているが、とりあえずスルー。ハジメはそれを聞いて、何やらスマホを取りだしてきた。


「……なんか、音声で遠隔操作とか、スマホのアプリと連携とか出来るらしぞ」

「へー……。でも、魔王討伐は無理だよな」


最近のルンバって凄いんだなぁと思いながらミノルの方を向くと、そこにはルンバを抱えてこちらを睨んでくるミノルの姿があった。


「え、なに……?」

「うちの子は! そんな機能がなくても、十分頑張ってくれてるんです!!」

「……ごめん、なんか地雷だったっぽい」


あまりの気迫にたじろいでいると、扉が開けられる音が聞こえてきた。


「ただいま……って、お前ら来てたのか」


ミノルと目元が似ているイケメンは、俺らの姿を認めるとよっと軽く手を挙げて挨拶をしてきた。


「あ、お邪魔してます」

「どもっす」

「うぇ……! おに……兄貴!!」


俺らもそれに合わせて軽く挨拶を返す。そんな中、ミノルだけは何やらマズイ! とばかりに顔を歪ませていた。


「おー、なんだなんだ。お前らがうちに集まるなんて珍し……ああ、ルンドネス・ルメナージュ・クリーン・ディスクレを見せびらかしてたのか」

「「は?」」


俺とハジメの声が重なり、ほぼ同時にミノルの方を見る。もちろん、お前名前はないって言ってたよな? 的な意味合いではなく、お前の兄貴何言ってんだ? の意味合いで見たつもりだったのだが、何を勘違いしたのかルンバで顔を隠しながら大声で叫んだ。


「そんな名前の長いルンバなんて知らないっす!!」


ミノルの声が部屋中に響き渡り、俺たちは静まり返った。そんな中、ハジメはボソリと呟いた。


「テーッテッテテー、ルンドネス・ルメナージュ・クリーン・ディスクレ は 橋岡 実 の 仲間 に なった」


まだ続いてたのかよ、それ。

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