日常の一幕
警備員さん
『階段』『残酷な人』『地図』
「今まで生きてきた中で行ったえげつない行為って、何があるっすか?」
休日の昼下がり。
ハジメの家こと飯島家で寛いでいた俺たちに、ミノルが唐突にそんなことを聞いてきた。
「どうした急に。頭バグったか?」
「いや、元々こんなだろ」
「二人とも辛辣すぎないっすか!?」
可哀想なものを見る目を向けてやると、ぶんぶんと手を振って抗議してきた。
「それで、どう話を広げていくんだよ」
「それはっすねー。一番えげつない行為をした、キングオブ残酷な人は今後大王と呼ばれるっす」
「全然やる気が高まらんな……」
とは言っても、他にすることはないのでとりあえず参加してみようと体を起こす。
「それじゃあ言い出しっぺの法則から、俺からいくっすよー!」
「お好きにどうぞ」
この手の話題は一番最初が肝心だからな。パッと思いついたことよりも、言い出したやつのとっておきから始めた方が盛り上がりやすいだろう。
そう思いつつ視線を向けると、ミノルはよしと気合を入れて話し始めた。
「俺、子供の頃アリの巣に水入れて遊んでたんすよねー」
そう言うと、次どうぞとばかりにこちらを見つめてきた。
「え、終わり?」
「うん、終わりっすよ」
「オチは?」
「実体験なんで、オチとか求められても」
真顔でそう言う彼を見て、これはガチなやつだと悟ってしまう。
「アリの巣の水攻めぐらい誰でもやるだろ」
「え!? そうなんすか!」
「誰でもかは知らんが、オレはやったことあるな」
子供の頃にやってたよく分からないことって言えば、ビームタッチバリア鬼ごっことアリいじめだろ。
「そうだったんすか……それじゃあ次、ノボルどうぞ!」
「ええー……この流れで俺言うの?」
何言っても滑りそうなんだがこの空気。
そう思いつつも、ゲンドウポーズをとるとゆっくりと口を開いた。
「うちの妹がまだ純粋だった頃……誕生日プレゼントにとある地図をあげたんだよ」
「「地図?」」
「そう。宝物の在り処が記しているような地図を」
過去を懐かしむように、在りし日々の映像が頭に次々と浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
「それで、『プレゼントはそこにある!』って格好つけて言ったわけですよ。ただ、地図に記した場所にあるのはプレゼントなんかじゃ当然なく、無駄に大きい箱と『空』と書かれた紙のみ……。結果、怒り狂った妹に縛り付けられてサンドバックにされるのだが、それはまた別のお話」
一気に言い終えると、ふーっと細長い息を吐き出してゲンドウポーズを解除する。そしてどうだと二人の様子を見てみると、微妙そうな顔をしているハジメとミノルの姿があった。
「え、なに。なんか変なとこあった?」
「変なところはないんだが、お前の話えげつない話というより、クズい話じゃない?」
「やってる事が地味なうえにえげつなさでは妹ちゃんに負けてるし……」
「うちの妹はあれだ。俺らに対して当たり強いから、昔はちょっとはマシだったんだぜ」
本当にちょっとだけだけど。
散々な叩かれようだが、既に俺のターンは終わっている。強引にハジメの話へと移せば、この話も終わるはず。
「じゃあ、ハジメはどうなんだよ。もちろん、最後のトリに相応しい、えげつない話を持ってるんだよな?」
「トリに相応しいえげつない話とは一体……。というか、俺そこまでのやつはあんま無いなぁ」
アリの巣水攻め経験者がよく言うわ。
ジトッとした目を向けていると、勢いよく階段を駆け上ってくる足音が聞こえてきた。
「ん、お前の姉帰ってきてね?」
「友達と遊んで来るって言ってたんだがなー」
「友達連れて帰ってきたとかっすかね?」
ミノルの発言に、場が静まりかえる。そして、互いに一度顔を見合わせると、こくりと一度頷いた。
「よし、逃げるか」
「緊急避難だな」
「さっさと逃げときましょ――」
ミノルの言葉を遮るように、部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。ゆっくりと首を動かし扉の方を見る俺たち三人。
訪問者は、そんな俺たちの行動を気にもとめずに明るく手をあげてきた。
「よう! お前ら何やってんのー?」
「ちわっす。ちょっと過去のえげつない行為についてですね」
「へー」
「と、ところで、お友達の方は……?」
「ん? そこで別れたよー」
その言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。とりあえずは、こちらに火が飛んでくることは無さそうだ。
「そういえばお姉さんは過去、えげつない行為ってどんなのしましたか?」
「おいおい、やったこと前提かよ。そんなもんやってねーって!」
はっはっはと笑いながら、バシバシと背中を叩いてくる。……痛い。
そんな姉をしらっとした視線を向けていたハジメが、ボソリと呟いた。
「……最近だと自分の弟を階段から落としたことはえげつなくないと」
「そんなことあったっけ? 忘れたー!」
はっはっは! と笑う飯島姉。
まじかよ、やばいじゃんとか、ハジメよく耐えれたなとか、頭大丈夫ですか? とか、色々と言いたいことはあったけれど、口からこぼれ落ちたのは一言だけだった。
「大王だ……」
「大王様っすね……」
「うちの姉、ちょっと頭おかしいから……」
「おい」
その後、めちゃくちゃ大王様に追いかけられた。
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