第96話 精霊術士とセシリア
「ノエル。私は、ずっとソロでやってきた。それは、自分が1人で何でもできると証明したかったからだ」
語り始めたセシリアさんの一言一言に、僕は耳を傾ける。
「私は、冒険者を志したときから、強い自分であることを常に望んでいた。かつての漆黒の十字軍の剣聖ユリアのような強い女にな。だから、いくら無茶だと言われようと、たった1人で、ずっとダンジョンへと潜り続けた。死線も多く超えた。もう無理だと思ったことも1度や2度ではない。だが、幸いなことに、私は生き延び続けることができた。そして、ついに、上級ダンジョンの攻略を達成した時、周りの人々は私を褒めたたえた。英雄とさえ言ってくれた者もいた。だがな、私自身は、ただただ疲弊していた。達成感は確かにあったが、同時に空しさも感じていたのだ。1人でダンジョンを攻略することに何の意味があるのか、とな」
セシリアさんは、天を見上げる。
「1人で冒険をすることに虚しさを感じ始めていた、そんな折、私はたまたま叔母の家で、君の攻略動画を見たのだ。自身は目立たなくとも、仲間のために必死で力を振るい続ける君の姿。正直、精霊を見ることのできない私には、君が何をしているのかあまり理解できてはいなかった。だが、一緒にいた叔母が懇切丁寧に教えてくれたよ。君がいかに凄いことをやっているかということをね」
「セシリアさんもメロキュアさんも、そんな昔から、僕の事を知っていてくれていたんですね」
「ああ、そして、君の戦いを見て、私は、自身が驕っていたことを改めて思い知った。誰かのために力を使うことの尊さを知った。たった一つの映像で、私にそれを教えてくれた君に、会ってみたい気分になった。私が暁の翼からの勧誘を受け入れたのは、元々は、君という存在と一緒に戦ってみたかったからだったのだ。そうすれば、1人ではなく、仲間と戦う意味を、見つけられるかもしれない、とね」
「僕は……その役割を果たせましたか?」
「十分すぎるほどさ。私はもう、君無しでは冒険ができないほどになってしまった」
穏やかな口調でそう語るセシリアさんの言葉が、なんだかとてもむず痒い。
「だがね。これ以上行くと、それは君への"依存"になってしまう。君は、この極光の歌姫での活動の中で、以前よりもいっそう力を増している。このパーティーは全員が優秀だが、君はその中でも、要と言っても良い。あのチェルシー以上にね」
「それは、さすがに買い被りすぎじゃ……」
僕はあくまでサポーター。セシリアさんと違って、ソロじゃ、ろくに魔物と戦うことなんてできない。
自分の事を役立たずなんて思ったりはしないけれど、パーティーで一番重要な存在かと言えば、そうとは思えない。
だけど、セシリアさんは首を横に振る。
「君は誰よりも頼りになる存在だ。だからこそ、皆、君の隣に並び立つ人間になりたいと思っている。でも、少しでも気を抜けば、私達は、君の力をただただ頼っているだけの存在へと堕ちてしまう。あのヴェスパやメグのように」
徐にセシリアさんは、立ち上がる。
「私は、君と共に戦うに値する冒険者になりたい」
セシリアさんは、僕の目の前で膝をつくと、そっと僕の左手を取った。
そうして、その手の甲に、唇を重ねた。
柔らかな感触が、手を伝って、僕の心臓がドクンと跳ねた。
「セ、セシリアさん……?」
「私は、君を心から尊敬している。だから、これからも、君と共に戦う乙女でいさせてくれ」
僕を見上げ、微笑むその顔は、乙女と言うよりも、むしろ、お姫様に忠誠を誓う騎士のような格好良さだった。
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