第7話 精霊術士とレベルアップ
「はぁっ!!」
チェルの剣が閃き、ミニオークのこん棒が半ばから折れて宙を飛んだ。
「ぶ、ぶひぃ……!!」
武器を失ったミニオークが悪あがきのように体当たりをしてくる。
あ、ちょっと危ないかな。
「サー・エイフェチ」
ボソリとつぶやくと、アリエルが、ミニオークを風でわずかに押し戻した。
死に体になったミニオークの胴を、チェルが横薙ぎにする。
「ふぅ……これで3体目だね!」
ミニオークを始末したチェルが、額の汗を拭う。
そんな何気ない仕草一つとっても、彼女のそれは美しい。
やっぱりさすが人気ナンバー1アイドルだなぁ。
「おい、お前さん。何、うちのお嬢を見つめてやがる」
「あ、いや……」
いつの間に背後にいたのか、サングラス越しに、マネージャーさんが凄みを利かせてきた。
いや、やっぱり顔怖いです。
「もう、マネージャー。ノルを怖がらせないで」
「別に怖がらせちゃいねぇ。だけどよ」
ザンバラの金髪をボリボリと掻くマネージャーさん。
「やっぱり俺には、こいつが何をしてるんだか、さっぱりわからねぇ」
「だから、ノルは、精霊を使役して──」
と、その時だった。
チェルの身体を包み込むように、光が弾けた。
「もしかして……これ……?」
「うん」
そうレベルアップだ。
冒険者は、素の自分の身体能力に加え、レベルアップを重ねることで、様々なステータスの恩恵を受けることができる。
しかし、ちょっと早すぎないだろうか。
確かに、レベルの低いうちは、必要な経験値というものも少なく、比較的早いスピードでレベルが上がるものだが、チェルが、倒した魔物は、まだ、たった3体。
どれもレベル的にはそう高くなく、至って、普通の魔物だ。
僕の【才覚発現】による取得経験値上昇は、それほど効果のあるものではないはずなんだが……。
まあ、それは置いておいて。
「おめでとう」
まずは、素直に彼女の喜びを共有してあげよう。
思い返してみれば、僕も、初めてのレベルアップは本当に嬉しかった。
あの感動を初めて味わっているとするならば、それは格別なものだろう。
「うん!!」
満面の笑みで微笑みかけてくるチェル……なんだかレベルアップした本人よりも、僕がご褒美をもらってしまった気分だ。
あっ、マネージャーさん。さりげなく、肘で腰をつんつんしないでください。怖いです。
「よーし!! 頑張るわよ!!」
さらに、やる気を出したチェルと共に、僕達はダンジョンを突き進む。
とても、快調だ。
僕の簡単なバフだけで、チェルは、次々と敵を撃破していく。
途中、複数の魔物に襲われることもあったが、アリエルの力を使って、常にチェルと魔物が一対一で対峙できるようにサポートした。
そうこうしているうちに、4層目へと突入した僕たち。
コウモリ型の魔物を一刀両断した瞬間、チェルの身体が再び光を放った。
「やった! また、レベルアップ!! これで、レベル5ね!!」
「え、えぇ……」
いや、いくらなんでも早すぎるだろ、これ。
「もしかして、チェルも獲得経験値が上昇するユニークスキルを持ってるの?」
「えっ? 持ってないよ」
そうだよなぁ。効果は微妙とはいえ、僕のこれも、唯一無二のユニークスキルだし。
そんな都合の良いスキル、そうそう持ってるわけが……。
「私のユニークスキルは、【スキル効果向上・極大】だよ」
「………………えっ?」
何そのユニークスキル。聞いたことない。
「たぶん、名前からすると、同じパーティーの仲間のユニークスキルの効果を、上げることできるんだと思う」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って……!」
えっ、それってつまり、彼女のスキルの力で、僕の【才覚発現】の効果がパワーアップしてるってこと?
しかも、これだけ早くレベルアップしているってことは、相当の上昇量のはず……。
自然と、ごくりと唾を飲み込んでいた。
「ん、どうしたの、ノル?」
「あ、いや、その……」
マジマジと僕を見つめるチェル。
いや、この娘、圧倒的に規格外かもしれない。
この娘となら、本当に……。
「おい、階段があったぞ」
マネージャーさんの声に、僕とチェルは振り返る。
すると、ほんの少し先の地面に、下の階へと続く、階段があるのが見えた。
どうやら、いよいよボスフロアらしい。
「行こう! ノル!」
「あ、ああ……」
チェルの無限の可能性に驚嘆しつつも、僕は彼女に手を引かれて、最下層への階段を降り始めたのだった。
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