第一出動 One for all, All for one ⑤
「で、他にはあるか?」
銀次が逸れた話題を修正する。
「はいはーい! 頭がいい!」
なぜか鉄平が誇らしげに叫ぶ。
真紀ほどではないが月花も成績が良く、クラス三位。更にスポーツも得意。天は二物も三物も与えている。
「そう言われてみれば、五人のうち三人が試験のクラス順位トップ3じゃねぇか」
「おぉ、さすがワーストレンジャー! 優秀だな!」
「村野、お前はクラス最下位だぞ」
銀次の気づきに鉄平が大いに沸くが、銀次は彼に再度哀しい真実を突き付けた。
「銀ちゃんよ、人生は勉強だけが全てじゃないぜ? むしろ勉学以外で精神の向上が図れるってモンよ」
「いいこと言ってる風だが、勉強も必要だからな? あと最下位が言っても説得力がねぇ」
かくいう銀次もあまり勉強を真面目に取り組んではいない。ガラス職人になる上で不要と考えているからだ。
「優は二位だもんな!」
「……まぁな」
鉄平が何気なく口にした質問に、優はぶっきらぼうに回答した。
「うんうん。時雨さんは長所がいっぱいだ。是非仲良くしたいよ。次に短所も考えてみようか」
鉄平の一声により、長所から短所の話へとシフトすることに。
「どうせ私と仲良くなったって何のメリットもないよ? 暗いし、ネガティブだし」
「ま、これが短所だな」
「……確かに」
優の指摘はもっともで、銀次も頷いてしまった。それは今の月花の発言が全てを物語っていたからだ。
才色兼備にも関わらずネガティブさが原因で月花はクラスで浮いている。
入学当初こそは月花に興味を抱いた男子数人が話しかけに行くも、月花のマイナス思考っぷりに全員が撃沈してしまった。
女子からはノリが悪くお高くとまってると思われており、距離を置かれてしまっている。
「でもよ、それを変えたい意識があるだけ時雨は偉いぞ」
「おおっと、本格的に口説きに入ったか?」
「銀ちゃんも真紀派なんかじゃなくて、ちゃんと時雨さん派で安心したよ!」
優と鉄平が面白半分で茶化すが、
「そんなんじゃねぇよ」
銀次にとっては至極真面目な意見だった。
ワースト5の汚名を
しかし、現状で変わる意志があるのは月花のみだ。そういった点では月花は他の面々よりも一歩先に進んでいる。
「自分を変えるために、月花は具体的にまずどうするべきだと考えてる?」
「え……っと、まずは笑顔……かな」
真紀の問いに答える月花はおどついている。それは今までほとんど会話したことがなかった相手から、いきなり下の名前で呼ばれて戸惑っている部分もありそうだ。
「おいおい、言ってる側から顔が強張ってるぞぉ? もっとソフトに柔らかく!」
鉄平は両手でピースを決めて笑う。こんな具合で笑おうよ、と。
「こ、こう、かな……?」
「まだガチガチだぞ。ナチュラルに笑えれば印象も変わるぞ」
苦手分野になんとかもがこうとする月花に、銀次も助言をする。
「う、うん」
変わりはじめている。
さすがにすぐさま成果は出ないが、月花は皆のアドバイスを真剣に受け止めつつ、彼女なりの笑顔を作る。
まだ作り笑顔だし、ぎこちない。けれど、いつか作り物ではなく偽りのない笑顔が月花から生まれる日が来るかもしれない。
「わたしもまだまだだがな。笑顔を作る魔法は修得できずにいる」
「そんなもんこの世に存在しないぞ。ゲーム脳も大概にしときな!」
「なんだとー? 鉄平のくせに! あの世送りにされたいか?」
「百瀬はどうしてそこまで魔法に
銀次の問いを受けた真紀は神妙な面持ちだ。
「ん、それはだな――」
どうやら深い理由が――
「魔法使いってカッコイイだろ~? 憧れるだろ~? なりたいじゃん!」
「あっそ」
なかった。
「だがな貴様ら、勘違いするんじゃないぞ。わたしはあくまで『ワーストレンジャー』が戦隊に
真紀は腕を組んで仁王立ちするが、小さな
「本来であれば、わたしが貴様らと行動をともにすることはない! なぜならわたしは一人が好きだから! 束縛されたくないから!」
「分かってる分かってる。真紀は戦隊の真似事がしたいだけだもんな」
鉄平は手をおざなりにひらひらと宙に舞わせて溜息を
「鉄平よ。お前はわたしの言葉を右から左に受け流しすぎじゃないのか?」
「本当は右耳にすら入れたくないがな! わはは」
「その意気やよし! 貴様に明日は来ないと思え! サンダーショット!」
真紀が鉄平に向かって手を伸ばして雷魔法をかけた。もちろん発動はしない。
「ああっ、痺れる~! もっといぢめていぢめてぇ~ん」
「……アホどもが」
「市原貴様! 今アホって言ったな! 鉄平はともかく私まで同類にするとは何事か! くらえ、スターアロー!」
「ふん」
真紀は鉄平の全身に指を差して優に抗議すると、彼に両手人差し指を突き出したが、優は冷淡にスルーするのみだ。
「まぁ落ち着けよ。ひとまず、これで全員の長所短所が分かったわけだろ? 今日は解散でいいんじゃねぇか?」
銀次は荒ぶる真紀を
「君、初めていいこと言ったな。今夜は雪か?」
「市原てめぇは村野が汚した教室を掃除してもいいんだぞ?」
「銀ちゃーん! オレがいつ教室を汚したよ」
「あ? 空気汚染」
「オレは汚物か!?」
「汚物は消毒だ~! ポイズンデリート!」
「あー真紀はもう喋らなくていいぞ」
四人の会話を月花は羨ましそうに見つめている。
「とにもかくにもワースト5の縁で結ばれた我ら五人。これから様々な事件を解決していこうぜ!」
鉄平はやる気に満ち溢れているが、銀次には腑に落ちない点がある。
「そうは言うけどよ、この学院平和じゃね? 事件とは無縁だろ」
銀次の言う通り、クリフィア学院は偏差値が高く、特に外部入学の生徒は高水準の成績と規律を保っている。
クリフィア学院は中等部からエスカレーター式で進学した内部進学組と、外部から入試を突破して入学した外部入学組の生徒から構成されている。
同士感覚か、内部進学者同士、外部入学者同士で仲良くなるケースが多い。
ちなみにワーストレンジャーでは、銀次、鉄平が内部進学者、月花、優、真紀が外部入学者である。
「例外が君だけどな」
「市原ぁ……それはなんも言えねぇ」
「まったく、君を含めた内部進学者はこれだから……」
外部入学者の中には、中等部の成績がどんなに悲惨でも、本人が望めば無試験で進学できる内部進学者を見下し、毛嫌いする者もいる。
もっとも、無用な
「俺や村野がコレで悪かったな」
「悪いと思うなら、少しは改善してくれないかな」
「善処する」
銀次は優におざなりな返事を投げつけた。善処するつもりはなさそうだ。
「いや、そんな学院だからこそ、裏に隠された闇があるに違いない! オレたちでそこに光を当てていくんだ! よーし、これからオレたちは『ワーストレンジャー』として活動を開始するぞっ! 今日は解散!」
「おーーーーっ!」
「「「………………」」」
鉄平は内部だの外部だのの
その気迫も手伝って、真紀を除いた他のメンバーはただただ
●●●
校舎から出ると、空はすっかり夕暮れに染まっていた。
優は「予備校の時間ギリギリじゃないか」と文句を垂れて早足で下校していった。
真紀は魔法の訓練があるとかで、もうしばらく教室に居座るらしい。
月花は本を読むとのことで、図書室へと向かっていった。
銀次と鉄平は夕焼け空の
「すげぇ展開になったな」
学院に意味を見出していない銀次がワーストレンジャーの一員として活動する羽目になるとは、果たして誰が予想していただろうか。
「
「おっ、銀ちゃん参加してくれるんだ? さすがだなぁ」
銀次が思っていたよりも活動に前向きだったため、鉄平は素直に関心した。
「百瀬や時雨も参加はするんじゃないか?」
「真紀はテンションMAXだったもんなぁ」
「お前も大概だったがな」
「問題は優か」
鉄平が優の名前を呟いたので、銀次は日頃の優の態度を思い返す。
奴が混じると、ワーストレンジャーの雰囲気がかき乱される不安を感じた。
「ま、あいつはいなくていいんじゃねぇか? 余計な一言で水を差すのがオチだ」
「まぁまぁ。優は頭が切れるから、役に立つ提案を考えてくれるかもじゃんか」
「そうかもしんねぇけど、あいつは信用できねぇ」
犬猿の仲だからという理由もあるが、普段の冷淡な態度を見ている銀次は優の参戦を歓迎していない。
「信用できるかどうかは、これから分かることよ」
鉄平は前を向く。そのポジティブさに銀次も「……そうだな」と頷く他なかった。
と、ふと
「俺は――時雨が気の毒だったから、参加してもいいと思えたんだよ」
「妙に時雨さんの肩を持つね」
鉄平は「気があるの?」とけらけら笑って茶化すが、銀次は「そんなんじゃねぇよ」と
「クラスで浮いてるって点じゃあ俺や市原も同じだけどよ。俺らとの決定的な違いは、変わりたいって前向きな想いがあるところだ。クラスでも上手くやっていきたいと考えてるんだろう。それなのに、今までずっと行動できずに
銀次が問うた際に、月花は弱々しくも強い意志で『変わりたい』と口にした。ベクトルは全く異なるものの、夢を持つ銀次には月花の
「報われてほしいよね。大丈夫、ワーストレンジャーの活動で、幸せをその手に掴み取ることができるさ」
「なんかの
あぁ、そのことねと前置きして鉄平は続ける。
「勘でしかないけど、時雨さんも会話に入りたそうにしてたからさ。声をかけたんだよ。会話自体したくなさそうだったら声なんてかけなかったさ。あの時のオレの判断が間違いじゃなけりゃ嬉しい」
「気を配る男だな」
鉄平は変態ではあるがいい奴である。変態ではあるが。
そこで会話が途切れると、銀次の脳裏には一つの疑問が浮かび上がった。
(あのランキングは誰が作ったモンなんだ……?)
誰がなんのために。ポイント数があったが、どれほどのクラスメイトが投票に加わったのか。
ワースト5の面々も、貼り出されたランキングをその目で見るまで存在を認知してはいなそうだった。
このことが銀次の心に引っかかった。
「じゃ、オレはこっちだから。また明日」
岐路の入り口で鉄平は手を挙げて挨拶した。
「おう、また明日な」
「毎日ちゃんと朝から来いよなー」
「気が向いたらな」
目的地が異なる二人の少年は、それぞれの道を進んでゆく。
その途中で鉄平はあることを思い出す。
「あれ? あれれ? そういや、オレの長所って話し合ったっけ?」
鉄平は頭から記憶を掘り起こすも、自身の長所についてのチャプターは見つからなかった。
「オレの長所ってなんだーー!?」
鉄平の叫びは無情にも街の中へと葬り去られたのだった。
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