ワーストレンジャー

小鳥頼人

プロローグ

「頼むから学院を辞めさせてくれよ!」


 季節は気温がどんどん下がってくる十一月。

 橋本家の親子は朝から言葉によるデッドヒートを繰り広げていた。

「ふざけるな! お前を中学から私立に行かせて今までいくら金を使ったと思ってるんだ!」

「考え直しなさい! 今からでも遅くはないわ。一生懸命勉強して良い大学に入るの。そうすればあなたも私たちと同じ年収一千万円以上の勝ち組になれるのよ」

 両親の猛反発を前に、息子の橋本銀次はしもとぎんじは重い溜息をいた。

「俺は多額の富を得たいとは思わねぇ。地味でも、収入が少なかろうが構わねぇから、自分が本当にやりたい職業で勝負してぇんだよ!」

 息子の主張に両親は揃って盛大に眉をひそめる。

「お前は自分が何を言ってるのか理解してるのか!? 高校を辞めるってことは、中卒になるということを意味してるんだぞ! そんな事態になってみろ、この橋本一族の大恥だ!」

「そもそも、なぜ学院を辞める必要があるの?」

 熱く燃える父親とは対照的に、母親は腕を組んで首を傾げつつも、冷静さは失わずに銀次に問うてくる。

「ガラス職人に弟子入りしてぇからだ! 学院なんて通ってもガラス細工の技術が身につくわけでもねぇ。だったらさっさと学院なんざ辞めて弟子入りした方が効率的だろ!」

 銀次は現在高校一年生で、卒業するまで二年半近くの時間を要する。この二年余りをただ学院と自宅の往復に費やすのは時間の無駄だ。

 ならば職人に弟子入りをしてほぼ毎日のペースで技術力を身につける方が一人前になるのもそれだけ早くなる。

 それが銀次の考えだった。

「俺は認めんぞ! 大学院までとは言わん。だがな、せめて大学までは卒業しろ! 頼むからこれ以上親を困らせるな!」

 母親も同意しているみたいで、父親の台詞を頷きながら聞いていた。

 猛反対を食らうことは承知していた銀次はやっぱりな、という心情になった。

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