商人少女

@RateDa

商人少女

暗闇があった。小さな光が1つ。

ぼんやりと、曖昧な輪郭があった。

人が集っていた。

喧々囂々。口上が劈く。


「安いよ安いよ!今なら感謝が安いよ!

お、其処のお嬢ちゃん。感謝は要らんかね?

要らんと?そんな筈はない!

余りの安さにびっくら腰が引けてるんだろう。

なに、怪しい者じゃあない。

わたくしめこのとおり、

清廉潔白!晴雲秋月!

嘘など吐いたことはございませぬ!

可憐なお嬢ちゃんには、、

どれ、この感謝なぞ似合いだ

嗚呼良く似合いだ!

お嬢ちゃん。そんな顔をしなさんな。

花の顔が萎れてしまいまする」


「…………」


「嬢ちゃん。

そんな目をしていては何処にも行けまい。

なに、大層なものじゃあない。

お前さんのその高尚なる思考、妙妙たる御心。

そちらをほんの三寸、いや、一寸ばかり。

其れと交換だ」


「…………」


「聡い嬢ちゃん、」


「君はもう

気づいてるだろう?」


「やあやあ、

もう黄昏てしもうた!

やつがれは此れにてお暇します故。

遊び遊ばせ長々と、感謝感激、いやはや感動。

皆々様猫も杓子も、

ささ、帰った帰った。

店仕舞いだ」


「お別れだ嬢ちゃん。

この老耄なぞ忘れてしまえ!

あゝそして、

めいめいに忘れる事勿れ!」




懐かしい暗闇だ。

私を除いて誰もいない。

来客を報せる足音が鳴る。


「あぁ、いらっしゃい。小さなお客人」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

商人少女 @RateDa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ