【天狗男】山で遭遇した八尺様【怪奇譚】
天狗男
山の麓
1つ、2つ、3つ...
緩やかな勾配の続く山道。
運動が苦手だった僕は若干息を切らしながらドリンクの入ったリュックを背負っていた。まるで鶏みたいに体を前後に揺らしながら父の少し後方を少しずつ登っていた。
一歩ごとに踏みつける丸木の数を数えることで疲労を考えまいと、無心に登る。
時折、立ち止まっては僕を待つ父は健脚だった。
「少し休もう」
父は脇にある苔の生えた大きな石に腰をかけ汗を拭いた。
僕もゼェゼェ言いながら近くに座ると呼吸が落ち着くのを待った。
(つまらない... )
次第に落ち着いてきた呼吸と共に冷静さが加速する。
一体何の為にこんな山登りをしなければならないのか...本当に嫌になる。
そんな僕を見向きもせず、父は目の前にそびえる山々を見つめていた。
山鳥の鳴き声がそこかしこから聞こえる。
季節は初春。
山道にはまだ雪が残っている。
天気は晴れているが時折吹き付ける風はまだ冬のそれだった。
父は山男だった。
子供の頃の僕は外で遊ぶことが嫌いでいつも家の中にいた。
そんな僕を見かねての父との2泊3日の小旅行だった。
目指すは山頂付近にある山小屋だ。
場所は信州、しかしあまり人気の観光地でもなく見て回るべきスポットもない所だった。父がなぜこんな辺鄙な場所を選んだのか、僕には皆目見当がつかなかった。
「これが見えるか?」
父が指差した先には祠があった。
とても古いようでお厨子は閉じて中は見えなかった。
「山に登る時は、ちゃんと神様に手を合わせて供物をお供えするんだ」
そう言うと父はリュックからお菓子を取り出し、祠に置いて手を合わせた。
僕もそれに続いて手を合わせた。
「夕方までには辿り着けるだろう」
父は無言で登り始めた。
僕も続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます