北海道が新婚旅行に向いている理由

Hymeno

一日目:西帯広→士幌→十勝三股→層雲峡→旭川

 旅の始まりをどこに置くか。個性の出る質問ですね。家を出るときと答える人もいれば、旅行先の地に降り立ったときと答える人もいるでしょう。気の早い人だと、旅行鞄に荷物を詰めているときだとか、なんなら旅行の計画を立てるところから旅だと思う人もいるかもしれない。

 かくいう私の回答は『旅行先に着く直前、窓から街の景色が見える瞬間』です。旅先の景色が視覚を貫く瞬間、旅が始まった、って一番気分が高まるんです。まあ、これを言うと「もっと旅情も楽しもうよ」って言われるんですけどね。

 と、いっても、旅先までの旅情を楽しむことができるのって、車や鉄道を使う場合に限られますよね。道外から訪問するときはほとんどの場合空路を使うので、私の感覚を理解してもらえると思います。だって、どう考えても、あの光景を目にする瞬間が一番興奮するでしょう?


「――また、来ましたね」


 山と海の狭間瀬戸内しか知らなかった私に、地平線まで広がる平野を教えてくれた土地。左に日高山脈、上に大雪山系が鎮座し、雄大な平野のど真ん中を3つの大河川が貫く土地。十勝平野です。

 今日は十勝の大パノラマがよく見えますね。私はこの光景をまず目に焼き付けるため、座席を左の窓際にします。帯広空港に着陸する飛行機は南西からカーブを描いて降りていくので、機体が傾いて平野がよく見えるからです。たまに右側に乗って、釧路方面への海岸線から阿寒・摩周方面を眺めるのも好きですけれどね。

 春夏秋冬、様々な顔を見せてくれる十勝平野ですが、私は夏の晴れ間が一番好きです。透き通る大空と大地が、私を私の非日常として迎え入れてくれる気がするからです。

 無事に着陸ランディング。搭乗員さんの丁寧なお辞儀に会釈を返すたび、私の口角が無意識のうちに持ち上がってきます。いけない。「なに一人でにやにやしているの」って言われてしまいますね。にやけを抑えながら到着口へ。色々な種類のキャリーバッグが流れてくるのを眺めながら、私のパートナーを待ちます。


「ご無沙汰しております」


 手を取りあって到着ゲートをくぐり、こっそりとばん馬に挨拶します。空港には色々なモニュメントが設置してありますが、ここには栗毛のばん馬の像がいます。とてもでかい。


「暑いですね……。さすがに慣れましたが」


 北海道に避暑に来る、というのは想像に難くないでしょう。ですが残念ながら、それは十勝には通用しません。フェーン現象というやつです。西から吹く湿った風が日高山脈にあたって雨を降らし、乾燥した暖かい風となって十勝平野に吹き下ろすため、十勝は国内で最も暑い地域になることがあります。最近は温暖化の影響か、札幌の方や釧路ですら非常に暑くなる日がありますが。


「白い車ですか……」


 レンタカーガチャに負けましたが、気を取り直してひとまず帯広方面へ向かいます。Galileo Galileiなんか流しちゃいましょう。北海道ですからね。

 帯広へ向かうには高速に乗るか、酷道236号を北上するかの2つですが、実はどちらを使ってもほとんど時間は変わりません。何故なら、帯広の街中に入るまで信号がほとんどなく、またほとんど直線だからです。街の西側に行きたければ高速を、東側に行きたければ国道を使いましょう。今回は西側に行きたいので、高速を使います。


「ちょうどいい時間ですね」


 時計を確認するとまだ11時前。昼食には少し早いですが、込み合う時間帯までに店に着くことはできそうです。空港の豚丼やアイス、セコマの筋子おにぎりやホットシェフを我慢して向かう先は、数多ある北海道のソウルフードの一角、そう、スープカレーです。

 スープカレーとは、その名の通りサラサラのスープ状のカレーに、ピーマンやナス、ジャガイモ、ニンジン、ヤングコーン、ブロッコリーなどの野菜や、鶏肉やウインナーがごろごろと入った食べ物です。


「よかった、まだ混んでませんね」


 今回訪れた店は、スープと具材を別々に選ぶことができます。スープは例えば、トマトやシーフード、ココナッツミルクなど。具材は鶏肉、豚肉、野菜多めなどなど。加えて辛さも選べて、10段階中2でも辛いという人は多いですね。

 私はトマトスープに野菜多めの鶏肉カレーを注文します。「またそれなの?」と言われても、私はこの組み合わせが好きなのです。そして、たとえいくら夏の帯広が暑くても、私は辛さ5を選択します。


「いただきます。はふはふ、あちち、からから」


 熱さと辛さで口をはふはふさせながらも、スプーンを動かす手はとまりません。辛いものってどうして食が進むんでしょう。大きな鶏肉にかぶりつき、ライスをスープに浸して味わいます。いっぱい食べる私が好き。


「腹ごなしも済みましたし、目的地に向かいましょう。今日はきっとよく見えますね」


 食事を終え、再びドライブの始まりです。214号を使って十勝川を越え、75号を経由して241号を北上します。音更の市街地を抜けると、一大農地帯を真っ直ぐ突き抜けます。右手には本別の丘陵地、左手には狩勝峠や大雪山系のあたりがよく見えます。

 士幌町に入って間もなく、士幌の道の駅、ピア21士幌が見えてきます。休憩には早いですが、このあとのルート的にお店がないので、ここで飲み物などを購入していきます。


「コーヒーとワインと、それとチーズ……あ、これも忘れずに買っておきましょう」


 色々なお土産や特産品が売っていますが、やはり生産者還元用ポテトチップスは欠かせません。しお、のりしお、コンソメの3種がありますが、私はしお派です。何がどう違うのかはわかりませんが、どこでも売っているポテトチップスより絶対に美味しいです。旅先の錯覚などではなく、本当に美味しいのです。

 ソフトクリームを舐めながら、再び出発です(もちろん、ソフトクリームも美味しいですよ)。士幌町は東西に長く南北には短いので、気が付くと上士幌町に入っています。


「あれ、なんですかこれ!」


 ホクレンの手前にガラス張りの新しい建物が立っていました。あとで調べると、新しくできた道の駅だったようです。はえ~なんだあれ、と思いながら糠平方面へ左折します。ここからおよそ9kmの直線です。本当に一直線なので、スピードの出し過ぎや居眠りに注意ですよ。

 直線が終わると急に山道に入っていきます。といっても、それほど曲がりもなく整備された走りやすい道です。糠平湖を右手に、糠平の町中を通り抜けます。ここには鉄道資料館や東大雪地域のビジターセンターなどがありますが、今回はスルーします。すでに2回訪れていますしね。


 糠平はスキー場と温泉、ダム湖が有名です。雪国といえどどこにでもスキー場があるわけではなく、十勝北部だと糠平や新得あたりが有名ですね。特に糠平の雪はいわゆるパウダースノーで、スピードが出やすく曲がりやすいという特徴があります。また、雪が柔らかくこけても痛くないため、初心者でも安心して練習できます。

 フェーン現象の話をしましたが、十勝は雨が少なく乾燥した気候です。年間降水量はたった600mmしかありません。水分量の少ない乾燥した雪が降るので、糠平のスキー場はパウダースノーになるんですね。「よく知ってるね」なんて言われますが、十勝大好き人間としては常識です常識。なんちゃって。


 さて、そんなうんちくを述べている間に、車は東大雪の樹海を抜ける糠平国道をどんどん登っていきます。ツーリングで有名な道の一つですが、ヒグマの密度が高いことでも有名です。車内にいる限り安全だと思いがちですが、ヒグマやエゾシカなど、飛び出してきた動物にぶつかれば大破するのはこちら側です。登りなのでそれほどスピードは出ませんが、気は抜けません。

 少し進んだところで、とある展望台の駐車場が見えてきます(駐車場というか、路肩が少し広くなっているだけの場所という感じですが)。一度車を停めて、展望台まで歩いて行ってみましょう。短時間でも虫よけスプレーは必須です。夏の北海道のアブの量をなめてはいけません。虫よけを忘れると猛攻に遭いますが、虫よけをしておけば周りを飛ばれても刺されることはありません。

 遊歩道はたいした距離ではないのですが、うっそうとしており、どこからヒグマが飛び出してくるかわからないので少し怖いです。昔は一人でガンガン歩いていったものですが、一度単独行中にヒグマに出くわしてからというもの、すっかり臆病になってしまいました。臆病な方が生き残れますけどね。

 5分ほど歩くと、木々の向こう側に湖が見えてきます。展望台まわりは少し切り開かれており、よく湖が見えます。


「双眼鏡双眼鏡……と」


 タウシュベツ川橋梁跡。かつて存在した士幌線の廃線跡で、コンクリート造の鉄道橋です。じきに崩壊するとのうわさを聞いて、もう一度見に来ることにしたのです。

 実は今日辿ってきた道のりは、ほぼ士幌線跡をたどっています。士幌線は帯広駅から十勝三股駅をつなぐ鉄道でした。特に、上士幌から十勝三股の間は森林鉄道として整備されました。明治維新後の北海道開拓期に、こういった森林鉄道や炭鉱鉄道は道内のあちこちで敷設されていきました(士幌線は日露戦争後に敷設されています)。

 タウシュベツの橋は鉄橋ではなくコンクリート橋であることが特徴です。鉄橋だと錆びて朽ち落ちたり、解体されて大砲の玉や軍艦になっていたかもしれませんね。

 もう一つの特徴は、ダム湖である糠平湖の水位によって見え隠れする点です。夏に見えなくなり冬に顔を出すと言われますが、夏でも地面まで見えていることもあります。今日も地面まで見えていますね。


「おおーよく見える」


 橋は湖の彼岸にあるため、肉眼だと小さくしか見えません。前回この展望台に訪れたときによく見えなかったため、今回は双眼鏡を持ってきてみました。橋の崩れているところまでよく見えます。すごい。

 昔は橋のたもとまで林道を通っていけたらしいのですが、現在は道有林に許可を得てゲートのカギを借りないと入れません。加えて道があれていてクマも出るので、あまり推奨されていないようです。ちなみに、糠平湖より北側の廃線跡は簡単に歩けますし、線路や信号跡などが残っているところも多いので面白いですよ。


「よし、満足です」


 しっかりと目に焼き付けたので、車に戻りましょう。ヒグマに怯えつつ森を抜けます。


「あっ……やっぱりか……」


 レンタカーの周りには無数のアブが集っていました。車の熱と、車体の白い色に引き寄せられているようなのです。黒や赤でも集まっては来るのですが、白色だと段違いの量がきます。だから白の車は避けたいのですが、貸されるレンタカーってなぜか白が多いんですよね。

 ひええと思いつつ最小限にドアを開け閉めして車内に滑り込みます。車内にアブが入っても慌てず、車を走らせ始めてから窓を開ければ勝手に出ていきますよ。


 さて、さらに北上を続けます。黒っぽかった左右の森林が、いつの間にか白が目立つようになってきました。低いところの道脇には樹皮の黒っぽいミズナラやケヤマハンノキが多かったのですが、登るにつれて樹皮の白いシラカンバに変わってきています。トドマツやエゾマツなどの針葉樹も目立つようになってきましたね。幌加駅跡や幌加温泉は今回はスルーします。幌加温泉はザ・秘湯って感じがしていいですけどね。


 ここで、見逃されがちな撮影スポットを紹介しましょう。十三の沢橋梁跡のあたり、とても気づきにくいですが、天狗の滝と書かれた木の看板が右手にあります。その先のカーブで急に右手の視界が開けます。ぜひここからの景色を観てみてください。前後に駐車スペースはあるので、慌てなくても大丈夫です。

 ここからは、立ち並ぶ双山、西クマネシリ岳とピリベツ岳がよく見えます。クマネシリとは物干し竿クマのようなシリという意味で、稜線が台地のように伸びている特殊な地形をしているところから名付けられたそうです。こちら側からは見えませんが、地図で見るとすごいですよ。ピリベツとは美しいピリペッという意味です。ピリはエトピリカのピリカと同じような言葉ですね。また、美里別、然別、陸別など、道内の様々な場所で出てくるベツは川という意味です。

 西クマネシリ山頂からの景色は、それはもう素晴らしいもので、北から西側にかけては表大雪や旭岳、石狩岳の山々を望み、北東は天気のいい日だと北見や網走、オホーツク海まで見えることもあります。南側は南クマネシリなどの山々が邪魔をして展望はそれほど良くありませんが、東側には物干し竿がよく見えます。また登りたいものですが、台風被害で林道が崩れてから、かなりの距離を歩かなければならなくなってしまっているので少し億劫ですね。


 気が済むまで双山を眺めたあと、再び車を走らせます。延々と続くと思われた鬱蒼とした森林は、唐突に切り開かれます。十勝三股、士幌線の終着点です。

 いまだに森林に戻っていないのは、そのように管理しているからなのでしょうか。切り開かれた範囲を見るに、最盛期にはかなりの家があったことがうかがえます。現在の十勝三股には、喫茶店が1店舗だけあります。この喫茶店の料理も一度は食べてほしいところですね。十勝の素材を生かしたピラフは、素朴な味で美味でした。次回はカレーを食べたいと思っているのですが、なかなか訪れる機会がありません。お店のおばちゃんもお話好きで、色々と教えてくれるので楽しいですよ。

 あとから思えば、喫茶店なんだから食事しなくてもコーヒーで一服すればよかったですね。とはいえ、今回のコーヒーは別の場所を目標としていたので、気が尽きませんでした。計画外の寄り道を苦手とするのは、私の旅路における欠点ですね。むむむ……。


 いつまでも続くように思えた樹海ロードも、そろそろ終わりです。いくつかの大きなカーブを越えると、橋が見えてきます。この橋を登り切ったところが、三国峠です。

 北東に三国山を望む三国峠。三国山山頂は上士幌町、北見市、上川町の境界であり、かつ十勝川、常呂川、石狩川の源流地点となっているそうです。十勝川は十勝平野を抜けて太平洋へ、常呂川は北見や網走を抜けてオホーツク海へ、そして石狩川は上川盆地や石狩平野を抜けて日本海へ注ぎ込みます。大河川3つの源流であるだけでなく、それぞれが3つの海へつながっているわけです。すごいですね。さすが北海道、スケールが違います。

 というわけで、三国山山頂付近には、北海道大分水点という石碑が立っているそうですよ。三国トンネルを抜けた先の駐車場から登山道があるそうです。一度行ってみたいですね。


 三国峠からは、今まで通ってきた東大雪の大樹海が一望できます。ですが、景色は少し我慢。まずは峠のカフェへ向かいます。


「アイスコーヒーを深煎りでお願いします」


 店の外からすでに漂っている、コーヒーのいい香り。このカフェのコーヒーが、今回の旅の目的です。こだわりの自家焙煎豆で、浅煎りから深煎りまで選べる仕様。空いているのであればゆっくり座ってカフェラテなど頼みたいのですが(可愛いラテアートもしてくれます!)、だいたいいつも繁盛しているんですよね。今回も持ち帰りを選択。ついでに豆も購入してしまいました。

 プラカップに入ったコーヒーを受け取り、とことこと展望の良い方へ歩いていきます。カップをくるりと回すと――今日はウサギさんでした。持ち帰りのカップにはかわいらしいイラストが描かれており、動物がお礼の言葉を述べています。このイラスト、毎回異なるので密かな楽しみなのです。

 三国峠と書かれた大きな看板があるので、その前でパシャリ。近くの人にお願いして、一緒にパシャリ。今日は特に空気が澄んでいるので、先のほうまで霞まずよく見えますね。運がいいです。

 こうしてみると、十勝三股から三国峠の間はかなりなだらかな盆地なんですね。和人がもう少し破壊的であれば、もしくは木材需要が続いていれば、三股から発展してこの辺りに一つ分街ができていたかもしれません。


 さて、第一の目標は達成しました。続いて、第二の目標へ向かいます。時刻は15時半、いい感じですね。三国トンネルを抜け、さらに北へと下っていきます。結構な勾配で下っていくので、スピードには気を付けましょう。

 しばらくすると右手に大雪湖が見えてきます。湖をぐるりと回ったあたりで左に曲がると、銀泉台へと向かうことができます。銀泉台は駒草平を抜けて赤岳へと至る登山道の登山口で、ここからの景色も良いですが、三国峠からの景色をより上から眺める感じですね。林道は舗装されていないわりに交通量が多いので、対向車やスピードの出し過ぎからのスリップなどに注意です。今回はここもスルーです。

 再び谷沿いの道を下っていきます。気が付けばシラカンバは姿を消し、再び黒っぽい森になっています。森の向こう側に柱状節理が見え始めると、第二の目標、層雲峡は目の前です。


 石狩川沿いの谷間にある層雲峡。小さい町ではありますが、夏は避暑や登山などの自然体験、冬はスキー客が泊まりに来るようです。ビジターセンターや食堂、セコマまであります。マイカーやレンタカーが普及しておらず、バスやタクシーしか使えなかったような時代は、大雪山系に登る拠点としても栄えたようですが、現在は観光客向けという感じがします。いずれにせよ、高級温泉街ですね。今回は宿泊するわけではありませんが、一度はこういうところに泊まってゆっくりしてみたいものです。

 では、何をしに来たのかというと、もちろん日帰り温泉です。北海道はいたるところで温泉が湧いているので楽しいですね。ここの温泉は硫黄泉ですが、川湯温泉のように強力ではないので、肌が弱くても安心です。また、大雪の雄大な景色を観ながら入浴できるのもいいですね。


「ふぅ……」


 明るいうちから入る温泉って、なんとなくむずがゆいですよね。宿泊客はまだほとんど入浴していないようなので、目の前の森を独り占めできました。ほのかな硫黄の香りに包まれて、今日の疲れを癒します。


「さっぱりしましたね!」


 濡れた髪を拭きながら、瓶の牛乳をぐいっと一本。これこれ、これが風呂上りってやつです。少し疲れて足や座り続けて凝っていたおしりも、すっかりほぐれました。湯冷ましに、少し町中を歩いてみましょう。

 層雲峡は道沿いから見ると大きなリゾートホテルが目立ちますが、内側のキャニオンモールと呼ばれるあたりは色彩の統一されたお洒落な街並みになっています。カナダの街並みを模しているらしく、いつもはオレンジ色のセコマも茶色っぽくなっています。京都みたい。


「足湯もあるんですね」


 嬉しがって茶色のセコマの写真を撮ったりしていると、足湯を見つけました。登山や滝の方への散策から帰ってきたあとにはちょうどよさそうですね。周辺を散策したりお土産屋を冷やかしたりして湯を冷まし、車の旅を再開します。といっても、あとは宿に向かうだけなので、慌てることはありません。


 層雲峡を出て20分もすると、上川町市街地に差し掛かります。ちなみに、上士幌のホクレンから上川のホクレンまで、峠越え100kmの間にガソリンスタンドはありません。三国峠でガソリンランプがつくと、非常にドキドキしながらどちらかに下りることになります。

 上川町自体の面積は広いですが、街自体は小さい町です。しかしながら、交通の要所として重要な土地です。上川町から東へ向かう北見峠越えは遠軽を通ってオホーツク海側に行く道となっており、旭川紋別自動車道という高速道路が通っています。また、石北本線も同様の山道を越えていき、遠軽から北見を経由して網走に達します。その両方の、西側の最奥がここ、上川町です。

 旭川から北見峠を越えて網走へ向かう道――逆の方が正確かもしれません――は、囚人道路と呼ばれているものです。網走監獄に収監された政治犯などを動員しつくらせた道路の事で、このルートは特に過酷であった道の一つであったそうです。網走監獄の博物館では、いかに過酷であったかが如実に描かれていました。囚人は人に非ず、酷い台詞です。


 上川から30分ほど走ると、旭川に到着です。陸軍第七師団の本拠地があった軍都であったからか、格子上+放射状の街並みが特徴です。旭川動物園や神居古潭などが有名ですが、今回は宿泊と夕食だけの予定です。

 時間は17時を過ぎたところ。宿にチェックインして、上士幌で買ったチーズとワインを冷蔵庫で冷やしておきます。財布だけ持って少し早めの夕食に向かいましょう。


 旭川の名物ってなんでしょう。海鮮……は別の場所で食べることにしているし、ジンギスカン……は札幌でも食べられますしね。うーん、馬刺しとかかしら。迷った挙句、そういえば本場の旭川ラーメンを食べたことがないことに気づいたので、夕食はラーメンにすることにしました。晩酌は宿に戻ってからでいいでしょう。

 旭川ラーメンは豚骨醤油ちぢれ麺です。店によりますが、旭川ラーメンの豚骨醤油はあっさりめなので食べやすいですね。ちぢれ麺がスープと絡みやすく、しっかり味わうことができます。つい癖でビールも頼んでしまいましたが、ラーメンとビールって合うから仕方がないですね。


 おなかいっぱいのほろ酔いになりました。宿に帰って、ほどよく冷えたワインを取り出します。運のいいことに、夜景のよく見える部屋にしてもらえました。グラスにワインを注いで、旭川の夜を横目にグラスを合わせました。

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