異世界転生酒場~あなたの転生お助けします。~

月城みなも

プロローグ

第1話 はじまりの転生者たち01

 気が付くと僕は酒場の前に立っていた。

 なにを言ってるのか僕にもわからない。

 けど、確かに目の前には酒場があった。

 なぜこんなところにいるのかと記憶を探るがよく思い出せない。

「確か、花梨かりんと出かけたんだよな?」

 だがそこから先が思い出せない。

「そもそもこんなお店、あったかな? それにいつの間に夜になったんだろう」

 その酒場はいわゆる和風の建物で、看板には酒場と書いてある。

 そして、ここがどこかわかるようなものはないかとあたりを見渡すが、真っ暗で何も見えない。

「お店の人に話を聞けばいいか」

 そう結論づけると僕は酒場にはいることにした。


「いらっしゃい。どうやら君が最初のお客さんのようだね」

 人の良さそうな男性がカウンターから話しかけてきた。

「あの?」

「聞きたいことがあるのはわかるけど、まずは座るといい」

「はい」

 勧められるがままにカウンターに僕は座った。

「なにか飲むかい? 今日は暑かったようだからビールでも」

「あ、お酒はまだ飲んだことがないので」

「おや? 学生とはいえ羽目を外したりはしなかったのかい?」

「そういうのは花梨がだめだって」

 花梨は僕の幼馴染みだ。

 彼女は自由な行動を好んでいたけれど、規則に関しては意外にも守る性格だった。

『意味がない規則もあるけれど、規則っていうのは原則なにか問題があったから生まれたものなの。だから窮屈だと思っても規則は守るようにしなさい。つまらない意地とか面子でなにかあったら取り返しがつかないわ』

 ことあるごとにそんなお説教をされてきた身としては今更逆らう気にもならない。

「なるほど。そういうことならソフトドリンクにしよう。今日は僕のおごりだ」

 そういってグラスになにか注ぐと僕の前に置いてくれた。

 手に取り、口にするとほどよく冷えた微炭酸の液体が渇いた喉を潤し、ほてった体を冷ましていくのがわかる。

 飲み物を飲んでおちついたところで、男性(この店の店長だったらしい。)は僕の置かれている状況を説明してくれた。

 結論から言うと、僕は死んでしまったらしい。

 話を聞いているうちに、おぼろげながら思い出してきた。

 買い物に行くという花梨に付き添って外出したところを花梨のストーカーに襲われたのだ。

 最後の記憶は傷の痛みと熱、そして泣いている花梨を後ろから刺そうしているストーカーの姿だった。

「そうだ、花梨は?」

「それは、本人に聞いた方が早いかな?」

「えっ?」

 店長がそういって、僕の後ろを見る。

 つられて振り返ったそこには、かばった幼馴染みの姿があった。

「えっと、ごめんね。あたしも死んじゃったみたい」


 店長に勧められるままに席に着くと、花梨は僕が死んだ後のことを話し始めた。

「あの後あたしもストーカーに刺されて死んだの。みなとより傷がまだマシだったから死ぬまで時間がかかったみたい。といっても、意識がなかったから痛みもなにもなかったんだけどね」

 花梨はなにもなかったように笑ってそういうけれど、僕は無理をしているのを知っている。

 自分が殺されたことよりも自分のために僕が死んだことを気にしている。

「花梨、大丈夫だよ。僕は後悔してないよ」

 あのとき、なにもせずに花梨だけ死なせていたらきっと僕は自分が許せなかっただろう。

 結果して守れなかったことは残念だけど、僕はあのときできることちゃんとやれたのだから。

「僕が自分できめてやったことだから、花梨は気にしなくていいんだよ」

「湊・・・・・・」

 そういうと、泣きそうになる花梨をなだめるように頭を撫でる。

 

 しばらくして花梨が落ち着いたのを見計らったように店長さんは僕たちに頭を下げてきた。

 突然だったのでどういうことなのかと聞くと、僕たちは本来死ぬことはなかったようだ。

 ストーカーに襲われはするものの、たまたまそばで見ていた人の通報で駆けつけた警官によってストーカーは取り押さえられ、僕たちも負傷はしたものの無事回復するはずだったのだ。

「ところが、こちら側のミス・・・・・・我々による干渉が想定外の事態を引き起こしてしまってね」

 なんと、店長さんは世界を管理する神様(創造神)の一柱らしい。

 僕たちの箱庭(ここでは世界のことをそう呼ぶらしい)の管理をしている創造神が、箱庭の調整を行ったときに発生したわずかな揺らぎ、そよ風が一瞬吹いたような気づくか気づかないかの揺らぎがその運命を変えてしまったらしい。

「神といえど完全無欠の存在じゃないからね。細心の注意を払っていてどうしてもそういう見落としは発生するんだ。結果君たちの運命を変えてしまった。本当にもうしわけなかった」

「あ~、頭を上げてください。聞く限り店長さんのせいではなさそうですし」

「そういってくれると本当に助かる」

 店長さんはホッとしたように息をつく。

「お詫びといってはなんだけど、君たちの転生をしっかり世話させてもらうよ」


 説明を終えて後、店長さんはこの場所のことを説明してくれた。

 ここは『転生酒場(仮)』というらしい。

 (仮)なのはできたばかりの箱庭で正式名称ではないからだそうだ。

 曰く、異世界に転生する子供たちの魂を手助けするところらしい。

 最近、本来の転生とは異なる摂理で転生する者が増えて、箱庭の管理が大変になっているらしい。

 その原因を調べたところ、転生先で困らないように少し強めの加護を与えて転生させていたことだと判明したそうだ。

「転生してしまうと、こちらからはほぼ手が出せなくなるからね。だから、ある程度は自分でやってもらえるようにという配慮からだったのだけれど、それが原因で箱庭が不安定になっては創造神の仕事としては本末転倒だ。だから、与える力を押さえる代わりに前知識と経験を積んでもらおうというのが目的だね」

「つまり、チートな能力は身につけられないと?」

「身につけようと思えば身につけられるけど、ものすごく時間がかかるんだ。具体的にいうと、その能力を手に入れるために訓練する時間がそのまま必要なるんだ。たとえば、ある職業で達人になるのに50年かかるというのであれば、50年は訓練しないといけない」

「なるほど。でも、ここにはそんなにいられないですよね?」

 この場所にに滞在できる時間には限りがあり、その期間が過ぎると転生することにすることになる。

「基本的にはそうだね。ただし、宿代を出してくれたらその間は滞在可能なんだ」

 この酒場には滞在時に寝泊まりする旅館が併設されている。

 最初のうちは宿代はかからないそうだが、決められた滞在期間を超えた場合は宿代が必要になってくる。

「宿代はこの酒場で依頼を受けてくれたら報酬を出すのでそれで払ってくれたらいい。普通に稼いでいれば滞在は難しくないよ。ただ、訓練を受けながらとなるとそこまで余裕はなくなるけれど」

 酒場の依頼は、訓練と違い能力の向上効果が少ない。

 どちらかといえば身につけた能力を実際に使って経験を積むのが主目的になっている。

 宿代を稼ぐために依頼を受ければ、訓練の時間が減るため、延長期間に入ると能力の取得速度が大きく下がることになる。

「まぁ、ここだと年をとらないから頑張ってみるのもありだとも思うよ」

 そういうと、店長さんは僕たちに紙を渡してきた。

「とりあえず、君たちの転生先について説明しようか」

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