偉大なる魔王様

カレー餅

第1話

 身体が怠い。


 口の中は乾き、視界がぼんやりと霞んで見える。起き上がる気力ももうない。眠ってはいけないと心の中で必死に争うも、身体は言うことを聞いてくれない。現実から切り離されていくのがわかる。起きなければいけないのに、無情にも私の身体は言うことを聞かない。争うことは許されない。嗚呼、これが、これこそが、私の、最----


「さっさと起きやがれください。いつまで寝てるつもりなんでやがりますっ、かっ!」


 そう声が響いたと思うと、私の毛布は勢いよく宙を舞う。嗚呼!身体が冷える!嗚呼、これが、最-----


「オラ、さっさとっ、起きっ、やがれっ、てんですよ! オラッ、オラッ、死ね!」


「ああ! 痛い、痛いって! 分かったから、起きたからもう殴らないで!? って言うか最後死ねって言った!?」


「言ってねぇですよ、言うわけねぇじゃねぇですか。あんたは私のマスターなんでやがります”しね“」


「だよね、うんうん。マスターにそんな暴言吐くわけ---え? 今なんか故意に強調された部b」


「メシが冷めるからさっさと起きやがってください」


「ハイ」


 主人に敬意のかけらも存在しないこの子の名前は『ライア』。肩まで伸びた白い髪、それに反する真夜中のように深い黒色の目、整った中性的な顔立ちに、スラリとした綺麗な身体に身につけているのはメイド服。うんうん、我ながら完璧なメイドを創りあげてしまったようだ。


「あ?なにこっち見てやがりますか目ぇ潰すぞ」


 性格以外は。


「ねえ、前から思ってたんだけど」


「なんでやがりますか」


 彼女は心底うざそうな目で私を見てきた。


「君さ、私が作ったゴーレムだって分かってる?」


「今更なに言ってやがりますか?分かってますよそんなことは」


「そう、私が創ったんだよ! 私のものなんだよ! なのになにさその態度は! もっと敬ってよ! もっとメイドっぽくしてくれよ!」


 そう、私が創ったゴーレムなのに、私に反抗的ってどう言うことなの?


「マスターに敬うところが一欠片でも存在すれば考えてやりますよ」


「あるじゃん!敬うところいっぱい!」

 

「何処が?」


 「ほら私創造主! 生みの親! いわば君のパパなんだよ!?」


「私が起しにいかなければ一生寝てやがるし、家事全般押し付けるし、風呂にも付き合わせやがりますし」


「君は私の専属メイドなんだからそれは当たり前じゃ無いか!」


「出した料理にも干した服にもケチ付けやがるし、そもそも勝手にメイド服着せて勝手に世話させやがるし、セクハラかまして来やがりますし、実験の後始末させやがりますし、絡みが鬱陶しいし、キモいし、ウザいし---」


「メイドなんだから主人の要望には応えないとだろう!?というか最後のはただの悪口じゃ無いか!?」


「娘に全てやらせるとか最低でやがりますね、パパ」


「ハイ、ゴメンナサイ」


 言い負かされながら、鏡を前に私は着替えをする。というより、ライアしてもらっている。


「ほら終わりましたよ。全く着替えもさせるとか最低でやがりますね」


 そう言ってうざそうな顔でこっちをみているライア。私は鏡の前にある自分の姿を確認する。

 いつもは跳ねまくっている私の白い髪は今日はしっかりと整っていて、服も今日のために拵えた(ライアが)特別な衣装だ。まさに魔王様っぽいこの格好。とてもいい。

 ふと、鏡の前の私の金色の目と目が合う。しばらく僕は見つめ続ける。ふむ、いい男だ、私。


「何してやがるんですか? 自分の醜さにとうとう気づきやがりましたか?」


「いや、ちょっとぼーっとしてただけ。っていうかしれっと私のこと醜いとか言わないでくれる?」


 そんな会話で私は鏡の自分との睨めっこをやめて、食事場へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る