門前払 勝無

「極」


 それは糸


 それはワイヤー


 人の人への念いは弱くも有り強くも有る。

 互いに強く念えば何に対しても負けないくらい強い物になる。


 しかし、些細な事で一瞬で切れてしまう事もある。


 沸点の低さは人の器と言うもので不味い酒をたくさん飲める人と飲めない人をイメージすると解りやすいと思う。その沸点の具合で幸せになれるかなれないかが決まるのであるー。



 朱美から長い文章が送られてきた。僕の嫌なところを永遠に綴られた文章であった。それを何度も読み返していくうちに生まれた疑問が“朱美は僕の悪いところだけを見ていたんだな、その都度言ってくれていれば”と思った。付き合いながら“何でも言いあっていこう。解り合えなくても伝え合うことで理解は出来るはず。擦れ違っても離れずに話し合って摺り合わせていこうね。何度も喧嘩すると思うけど僕達なら仲直りできる。その為に向き合っていこうね”という僕の念いは朱美の文章からは読み取れなかった。僕は連絡が取れなくなった朱美を思い自殺した。


 部屋を片づけて特殊清掃員さんの手間を省くために捨てられるものは全部捨ててた。売れる物は売って友達の銀行口座へ振り込んだ。何も無くなった部屋にブルーシートを敷いてその上にペット用のトイレシートをたくさん敷いて僕は睡眠薬をスポーツドリンクで1瓶飲んだ。


 今は腐敗が始まった自分の骸を見ながら窓際に座っている。


 傍に居て欲しい人に永遠と嫌な思いをさせてしまっていた自分はその人にとって苦痛でしか無くて顔すら見たくなくLINEという文字で別れを伝えてきた。そこには僕が一番嫌う手法を使われたと言うことはそこまで僕は朱美に怨まれていたのだと思う。僕にとっての生き甲斐が失われた瞬間に僕の人生は終わりを告げたのである。


 だが、死んで初めて思うのはこうやって自分の腐った骸をみて“自分を見つめ直す”事が出来ている。


 何でも話せる


 嫌なことがあっても二人で乗り越えられる


 死ぬまで抱き合って暮らしたい


 別れるなんて選択肢は無い


 これは僕一人が勝手に思っていた事で朱美にとっては一時の遊びだったのである。


 朱美には気軽な相手の僕から重い念いを伝えられて苦痛でしか無いのが解ったのである。


「そりゃそうだよな」

僕は自ら命を絶って後悔はしていない。

「結局はこれが僕の人生だったんだなぁ、朱美の近くにと思って引っ越してきた事も朱美には苦痛で僕の見た目も声も全てが苦痛…でも何故僕と会っていたのだろう…それはたまに合ってセックスをするだけの為なのか…たしかにそれだけかも、せめてそれだけならそうと言って欲しかったなぁ」

僕は部屋を出て近所を歩いた。

 全く思い入れの無い町並みは僕を無視している。


 僕は死んでみて自分を知りつつある。不器用な奴だなぁ不器用なクセに器用だと思っていたんだ。行動も言葉も不器用で勘違いされて誤解を招く、でも生きていた。

 考えれば考えるほど僕は産まれてきて生きてきた意味が無く価値がなかったと思う。そして、もっと早くに気づいて居ればと後悔ではなくそういう選択肢もあったなぁと思った。長所短所はそれぞれ人にはあると思うが僕には短所しかない。朱美の文章からは遠回しに“死ね!消えろ!”と言われている気がした。活字はやっぱり怖いなと思って死に至るまでが早かった。時代に合った終わり方をした。


 究極の人生は何も求めない。

 目の前に現れた事をクリアしていく。

 欲を出さない。

 自分の考えを口に出さない。

 自分の頭で考えている事を半分削る。

 自分以外は自分と同じ考えの人は居ないと思う。

 文章力を鍛える。

 会話するときは相手に合わせる。

 全て受け身で生きる。


 そして、無になる。


 それが生きる秘訣だったなぁと天国への階段を登り始めた。



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門前払 勝無 @kaburemono

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