他人の空似
桃花さんと付き合って半年が経った。とある夏の日のこと。その日あたし達は、夏祭りに来ていたのだが——。
「うわっ。充電切れてる!」
彼女と逸れた上に、スマホの充電が切れていた。呼びかけながら探すが、彼女は応えてくれない。
スマホを充電し忘れた自分を呪いながら、ひたすら探していると、彼女らしき後ろ姿を見つけた。
「桃花!」
追いかけて捕まえる。スマホを耳に当てて誰かと話していた彼女は、あたしを見て驚いたような顔をした。よく見ると、着ていた浴衣の柄が違う。持っているスマホも違う。どことなく、彼女より大人びている。しかし、顔はそっくりだ。彼女もあたしを見て目を丸くながら「分身した?」と呟いた。
「ぶ、分身?」
「……あー……いや、ごめん。ちょっと今、女の子に声かけられて。多分、人探してるんだと思う。ちょっとまたかけ直すわ」
声までそっくりだ。
「で、お嬢ちゃん。私はトウカじゃないんだけど。友達と逸れたの?」
「えっ、あ、は、はい……あの……人違い……?ですよね?」
「人違いだよ。私はトウカじゃなくて、
「剣城育実です……」
「ふぅん。……声まで似てんな……」
「えっと……今電話してた人にっすか?」
「そう。私も連れと逸れちゃって。てか、その顔でその口調なんか嫌なんだけど」
「嫌と言われましても」
「電話は?繋がんないの?」
「充電切れちゃって」
「貸そうか」
「あー……連絡先はLINKしか知らなくて……」
「電話番号くらい知っとけよ。しゃあねぇなぁ」
ため息を吐いて、満さんはどこかに電話をかけ始めた。
「もしもしー。ごめんごめん。あのさ、私にそっくりな女の子見なかった?お。一緒に居んの?トウカって名前の子?うん。さっき話してた女の子の連れらしくて。あ?ドッペルゲンガー?マジで?そんなに似てんの?ははっ。こっちもあんたそっくりなんだけど。何その偶然」
電話の相手は探していた人のようだ。どうやらあたしに似ているらしい。
「射的の屋台の近くに居るってよ。ほれ、行くぞ」
差し出された手を取る。彼女にそっくりな、彼女ではない人に手を引かれて歩いている。なんだか不思議な気分だ。
「育実の連れって、どんな子?」
「えっと……見た目と中身のギャップが激しい人で……見た目は大人しそうな女の子なんですけど、喧嘩っ早くて」
「へ、へぇー……」
「満さんの連れは?」
「んー……ツンデレお嬢様?」
「なんすかそれ……」
「歳はいくつ?」
「あたしと同い年。高三です」
「ふーん。二つ下か……」
「えっ。満さん二十歳なんすか」
「おう。合法で酒飲めるよ。こんなんだから、店で酒とかタバコ買うと身分証出せって言われるけど」
「大学生?」
「そう。彩華大学の社会心理学科」
「へぇ……」
「おっ。居た居た。
満さんが手を振る先には、不機嫌そうな顔をした女性と、桃花さん。改めて見比べるとやっぱり満さんに似ている。さらに、満さんと彼女は恋人同士らしい。
「そんなところまで一緒なのかよ」
「……桃花の方が可愛いわね」
「あ?なんだ?浮気か?若い方が良いってか?」
「若いって、二つしか変わらないじゃない。ていうか、そこじゃないし。いいじゃない別に。わたしが浮気したって貴女は悲しくもなんともないんでしょう?」
「まーたすぐそうやって拗ねる。めんどくせぇ女だなほんと。それでも良いって言ったのあんたじゃん」
「悪かったわね。めんどくさくて」
「あのー……痴話喧嘩に巻き込まんといてくださいよ」
桃花さんが苦笑いしながら言うと、二人ははっとして、申し訳なさそうに謝った。
私と彼女はあまりこういう喧嘩はしないが、おそらく彼女達はしょっちゅうしているのだろう。顔はお互いにそっくりだが、どうやら性格は全然似ていないらしい。
のちに調べてみたが、あたしと実さんも、桃花さんと満さんも、特に遠い親戚というわけではなく完全に赤の他人だった。不思議なこともあるものだ。
骨の髄まで愛して 三郎 @sabu_saburou
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