壁の薄いお隣さんは私が欲しい「ワタシ」でした。

夢見 月

0-a.木造築60年(共同トイレ)家賃5.4万円 205号室

歌手になりたかった。

聴いている人を魅了する歌と、誰からも憧れるような容姿をもちあわせ、天は二物を与えるのだ、と言わせる完璧な歌手に。



 歩けば誰もが振り向くような、人形のようなすらっとした手足にウエスト、そして何より、近寄りがたさすら感じさせる美しい顔。

この容姿で、これまでの人生、いろんな事がうまく行って、当然の結果として芸能事務所にも所属することができている。

モデルの仕事をいくつかこなし、SNSではとんでもない数のフォロワーから、いいねとコメントが届く毎日。「可愛すぎる!」「いつも応援してます!」そんな声は、本当に私に生きる希望をくれた。


それなのに、私が本気で欲しいと願うものはいつまでたっても手に入らない。そのためなら、この顔なんて手放してしまってもいいぐらいなのに。


誰がどう見てもキラキラした、誰かが死ぬほど手に入れたい私の人生は、



全部がニセモノだった。


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