第91話:家族愛
皇紀2223年・王歴227年・初秋・キンロス地方
「カンリフ公爵、一族衆が俺に絶対服従を誓う魔術契約を結ぶのなら、このエリクサーをライアン殿に与えよう。
ただし、カンリフ一族の次期当主はこれまで通りライアン殿に務めてもらう。
俺は天下を争乱に広めたいわけでも、カンリフ家に内紛を起こさせたいわけでもないから、当主交代をさせる気も後継者争いをさせる気もない」
「ありがとうございます、エレンバラ侯爵殿、いえ、頭領」
「兄上、止めてください兄上、兄上が国王以外に頭を下げるなど、納得できません」
カンリフ公爵の長弟イーサンが俺に反発するように止めやがる。
俺さえいなければ、自分の子供がカンリフ一族の当主に成れる。
子供可愛さもあれば、自分が一族当主の実父として実権を握りたい野望もあるのだろうが、それがあらゆる強国を滅ぼした内紛の始まりだと理解しているのか。
人間とは本当に弱い者だな。
カンリフ公爵を支え続けた強固な兄弟愛が、目の前に大きな利をぶら下げられたら簡単に失われてしまうのだから。
「イーサン兄者、それではカンリフ家が内紛で滅んでしまうぞ。
何のために我々が他家に養子に入ったと思っているのだ」
カンリフ公爵の次弟、メイソンがイーサンを諫めた。
こいつは欲望に囚われることなく一族の事を考えられる漢なのだろうか。
あるいは利から一番遠くにいたから客観的に見られたのか。
本家の嫡男であるライアンが病死するとしても、自分の子供は次兄の子供か弟の子供が継ぐ可能性が高かったから、冷静にいられたのかもしれない。
「そうだぞ、イーサンの兄者、俺は既に愛する子供が後継者争いをさせられた。
これ以上あのような嫌な思いはしたくないぞ。
兄弟だけでなく、自分の子供達や甥達が後継者争いで殺し合うのだぞ。
それでは天下を乱した王家や宰相家と同じではないか。
イーサンの兄者は、愚かな兄弟を育てたと愚者だと父上の名を穢したいのか」
今度はカンリフ公爵の三弟、ライリーが諫め始めた。
「うっ、親父殿の名を穢すだと……」
「そうだ、我らは天下の平安よりも権力を欲した、王家や宰相家を正すために戦ってきたのではないのか。
確かに天下に覇を唱えたいと言う欲望はあった。
カンリフ家の名を天下に轟かせたいという欲望はあった。
だがここで王家や宰相家と同じような内紛を起こしたら、同類になるのだぞ」
なるほど、ライリーのフリーク侯爵は、俺の所為で既に子供達が後継争いで殺し合ったのかもしれない。
そこまでは行っていなくても、兄弟の間は相当ギクシャクとはしたのだろう。
それに、ライリーは死んだ父親に対する想いが強いようだな。
「……分かった、我欲は捨てる、我欲は捨てるが、カンリフ一族全員がエレンバラ侯爵に臣従すると言うのは、納得できぬ」
やれ、やれ、メイソンとライリーは納得してくれたようだが、イーサンにはもう一押し必要なようだ。
さて、何を提供すればイーサンを納得させられるかな。
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