第76話:詰め城

 皇紀2223年・王歴227年・早春・ロスリン城


 俺は焼き払ったベリアル教団の大神殿をどうするか考えた。

 一山全てを拠点とした、広大壮麗な大神殿だったが、今では俺に焼かれて無残な姿となっている。

 だが再建するのなら、基礎となるべき石造りの建物や城壁が残っている。

 敵の攻撃に備えるだけならば、とても堅牢な城に作り替えることができる。

 しかし、俺は護りを重視して山奥に引っ込む気はない。

 交易に便利で敵の攻撃に即座に反撃できる場所がいい。


「アイザック、ベリアル教団の大神殿跡だが、男爵領として支配してくれないか」


「……それは、幾らなんでも一族譜代衆に猛反対されます。

 大神殿跡からは、何時でも閣下の居城や首都に攻めかかる事ができます。

 閣下の代ならば、どれほどの大軍で攻め込んでも、鎧袖一触で撃退出来るでしょうが、子孫の方々が必ず名君であるとは限りません。

 我が男爵家も、子々孫々忠臣が続くとは断言できません」


「確かにその通りだが、それは一族衆や譜代衆も同じだ。

 いや、一族衆や譜代衆であるからこそ、主家を滅ぼして自分達が権力を握ろうとする可能性が高い」


「それは分かっておりますが、幾らなんでもこれ以上の親任は重すぎます。

 それよりは、その代の当主が心から信用できる家臣を代官に任じて……

 あ、閣下の御下問があり、わたくしから献策した事にするのですね」


「そうだ、その上でアイザックに築城と支配を任せたい。

 アイザックとアイザックが育てたエレンバラ家の影衆は、常に俺の側にいてくれるのだから、俺が一番大切に思っているイザベラを大神殿跡に築城する詰め城で護って欲しい」


「そういう事でしたら、喜んで築城と代官の役目をお受けさせていただきます。

 どれくらいの規模で築城すればよろしいでしょうか」


「城の縄張りが広大過ぎると、兵力がないと守り切れなくなる。

 今いる影衆と修道僧、猟師や木地師と言った山の民、それと、イザベラや母上の女官や嬢子軍で守り切れる規模の城にしてくれ」


「承りました。

 平時は山に住む者だけで守れる規模で、非常時には閣下と大軍が籠城する事を考慮して考えさせていただきますが、少々時間がかかると思われます」


「そうだな、全く相反する最小人員と最大人員を何とかしなければいけない。

 ふむ、魔境で狩りをさせながら鍛えている、予備兵団の拠点を詰め城に替えよう。

 そうすれば、常時守備に回せる兵力が格段に増えるであろう。

 狩った肉を詰め城で保存しておけば、急いで大量の非常用兵糧を山の上に運び上げなくてすむ」


「左様でございますね、それがいいと思われます」


「では再建の責任者はアイザックに任せる。

 アイザックが詰め城にいられない事も多いだろう。

 副官や部下は好きな者を俺に言え、つけてやる」


「有り難き幸せでございます。

 ジャック様達のような閣下の叔父上方や、閣下が一番信用されておられるローガン様の一族方でもよろしいでしょうか」


「構わない、アイザックが必要と思う人材や金は全て与える、遠慮するな」

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