第67話:伝書魔術

 皇紀2223年・王歴227年・早春・野戦陣地


 多くのラノベでは、遠方から味方に情報を伝える魔術がある。

 携帯のように、お互いの魔力を交換する事で通話できる設定の話。

 魔力で創った小鳥を伝書鳩のように飛ばして伝言を届ける設定の話。

 魔力の塊ではなく、鳥類や虫を使い魔にして伝える設定の話。

 遠距離の情報伝達が不可能だと言う設定の話もあります。


 この世界では、支配下に置いた魔獣を伝令に使うと言うのが一般的だった。

 鳥類や蟲を使い魔にして伝令に使った方が、自分の魔力を使わなくてすむ。

 だがこの方法だと、弱い使い魔だと敵に殺されて伝令が果たせない事がある。

 敵本人だけでなく、敵の強い使い魔に殺されてしまう可能もある。

 そもそも魔獣を使い魔にできるほど強い魔力を持つ者でなければ不可能だ。

 だから、普通の鳩が今でも伝令役を務める事が多い。


 俺も最初は使い魔による伝令など考えもしなかった。

 家族を護るために、可愛くて強い狼系の魔獣は使い魔にしたが、彼らを伝令に使う事など全く考えていなかった。

 だが、真偽は別にして、戦国時代に太田資正が犬を伝令に使って城を救った話を読んだ事があった。

 アニマやラノベでは、強い鷹や鷲を伝令や護衛に使う話もある。


 あり余る時間があったのなら、俺は魔境に行って飛行系魔獣を使い魔にしていた。

 だがそんな時間を使うくらいなら、他の事に時間を使いたかった。

 とても苦手な人間関係の構築に時間を使う必要があったのだ

 日々刻々と変わる情勢を分析し、対応策を考える方が遥かに大切だった。

 魔力で代用が可能ならば、その方が楽だったのだ。

 俺にはそれくらいあり余る魔力があるのだから。

 領内に多くの猟師や山の民がいたので、屑魔石なら幾らでも集まった。


 愛読していたラノベを参考に、屑魔石を泥団子のように混ぜて固めてみた。

 幼馴染の多くが幼い遊びを卒業したのにもかかわらず、幾つになっても泥団子作りが大好きだった俺は、魔力を注いで簡単に魔石を魔晶石や魔宝石に変化させられた。

 しかも、その魔宝石から純粋な魔力で出来た使い魔を創り出すことができた。

 非常用に自分の魔力を蓄えた魔晶石や魔石を持っているのは貴族士族の嗜みだ。

 いや、嗜みというよりは、生死を分かつ武具だと言える。

 そもそも最初に俺が主力輸出品にしたのは魔力の詰まった魔石だった。


「爺様、フリーク侯爵に和平交渉をおこなって欲しい。

 俺がアザエル教団の聖堂騎士団を叩いたら、カンリフ公爵にはアザエル教団の教団本部を叩いてもらうのだ。

 カンリフ公爵の兄弟は、父親である前当主をアザエル教団に虐殺されている。

 俺に対する警戒よりも、アザエル教団に対する増悪の方が大きいはずだ。

 三歳年下の従弟であるアルロは、庶子とは言えフリーク侯爵の三男だ。

 薄いとはいえ俺とカンリフ公爵の一族は親戚なのだ。

 叩くよりは同盟を結んだ方が有利だと思わせるのだ」


 この世界は結構礼儀正しくて、正式な使者を害する事はとても少ない。

 滅亡寸前の場合や、無礼極まりない者は別だが、普通は礼儀正しくもてなす。

 これから王位を狙おうとするカンリフ公爵ならば、使者を殺すような事はない。

 そんな事をしてしまったら、王としての資質がないと糾弾されてしまう。

 こちらとしては、俺がアザエル教団の聖堂騎士団を滅ぼすまで動かないでいてくれるだけで十分だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る