第57話:義父
皇紀2222年・王歴226年・晩春・ロスリン城
俺の思惑通り全てが順調に進んでいる。
俺が所有していた爵位の内、二つの男爵位を大叔父とアイザックに与えた。
二人とも男泣きしてくれて、思わず俺までもらい泣きしそうになった。
叔父達と譜代衆も表面上は大人しくしていた。
残る四つの男爵を目指して切磋琢磨してくれればいいのだが、陰でカンリフ公爵家に通じるような真似をしたら、利用して叩き潰してやる。
アイザックが王国男爵に成った事で、イザベラは男爵令嬢になった。
皇国子爵ならイザベラを正室に迎えても何の問題もない。
だが、王国侯爵として考えると、少々爵位が足らないのだ。
何とかする方法は、男爵令嬢となったイザベラをそれなりの家の養女にする事だ。
だが並の王国貴族が相手だと、いつ戦う相手に変わってしまうかもしれない。
皇国貴族が相手なら敵対する可能性は少ないが、とても面倒なのだよ。
「伯父上、何も難しく考えてくれなくていいのです。
断られたら諦めますから、頼むだけ頼んでください。
我が家とカンリフ公爵家が仲良くすれば、ヴィンセント子爵家は安泰ですよ」
俺は優しく伯父を脅かしたが、貴族としては仕方のない事だ。
自分の家のためなら、血の繋がった親戚の家であろうと脅迫するのが貴族家だ。
伯父のヴィンセント子爵家は、カンリフ公爵の三弟フリーク侯爵と縁がある。
母上から見て二番目の叔母が側室として嫁いでいて、子供までなしているのだ。
直接血の繋がりはないが、カンリフ公爵と俺は姻族なのだ。
だからといって、イザベラの養家にカンリフ公爵一族に選んだわけではない。
俺が狙っているのは、リンスター選帝侯家なのだ。
困窮のあまり娘を陪臣騎士でしかなかった時代のフリーク侯爵に嫁がせている。
俺が調べた範囲では、そうしなければいけない事情があった。
先代のリンスター選帝侯はとても身勝手なうえに残忍な男で、皇国貴族でもあった執事を謀殺した事が原因で、全皇国貴族から憎まれているのだ。
そうでなければ、流石に他の皇国貴族や王国貴族に娘を嫁がせる事ができた。
当代のリンスター選帝侯の一番下の弟が、僅か領民二百人の土地と引き換えに陪臣騎士家の家臣になるような事もなかった。
フリーク侯爵からの支援も、今のような最低限のモノではなかっただろう。
せっかく娘を嫁がせたのに、皇国選帝侯家に相応しい生活どころか、貧しい事で有名な皇国騎士家以下の生活をしている。
そこに俺が付け入る隙があるのだ。
「私が正室に迎えたい男爵令嬢を養女にしていただければ、フリーク侯爵などとは比較にならない支援をさせてもらいますよ。
何なら実の孫がリンスター選帝侯家を継げるように皇帝陛下にお願いしてもいい。
リンスター選帝侯も妹の孫よりも自分の孫に跡を継がせたいのではありませんか。
もしそうなれば、フリーク侯爵は叔母上の生んだ子が継ぐことになりますよ。
この企みが成功すれば、伯父上はフリーク侯爵の伯父に成れるのですよ。
カンリフ公爵が王位を継ぐことになれば、伯父上は安泰ですよ」
「分かった、ハリー殿の言いたいことはよく分かった。
儂もできる限り説得するが、リンスター選帝侯への支援は、どれくらいの金額を考えてくれているのだ」
「そうですね、本家争いをしているドニゴール選帝侯家やアバコーン選帝侯家を相手にしなければいけない義父殿に、恥ずかしい思いをさせる訳にはいきませんからね。
年間金貨五百枚ではどうですか、先年皇帝陛下のために取り返した直轄領と同じだけの価値があると思いますよ。
成功した暁には、伯父上にも同じだけの支援をさせていただきますよ。
これまでの支援と併せれば年金貨千枚、選帝侯家に比肩する収入ですよ」
「分かった、何としても説得してみせる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます