第14話:祖父叱責

 皇紀2213年・王歴217年・春・エレンバラ王国男爵領


「爺様、勝手な真似をされては困る」


 俺の前には申し訳なさそうにする祖父がいる。

 俺の方針に逆らって国王を亡命させた事を、申し訳なく思っているようだ。

 申し訳ないと思うのなら、勝手な事はしないで欲しい。

 どうしても国王を見捨てられないのなら、せめて事前に相談してもらいたかった。

 もっと早く相談してくれていたなら、今以上にいい手を打てた可能性もあるのだ。

 国王が我が領内にいるかいないかで、打てる手が全く違ってくるのだから。


「本当に申し訳ない、このような事になるとは思っていなかったのだ。

 首都を放棄された国王陛下をエクセター侯爵が迎え入れると思っていた。

 それが駄目でも、国王陛下は宗教都市に逃げ込まれると思っていたのだ。

 まさか我が家に亡命されるとは、想像もしていなかった」


「考えが甘すぎるぞ、爺様。

 エクセター侯爵家は代替わりをした直後なのだぞ。

 どの家でも代替わりの時にはゴタゴタと揉めるものだぞ。

 まあ、宰相代理を務められた先代は英邁だから、随分と前にエクセター侯爵家の家督を当代に譲られていたが、それでももめるのが家督継承だろうが。

 しかもあれほど偉大だった先代が亡くなられたのだ、先に隠居して当主の座を譲っていようと、代替わりしたのと同じだという事は爺様も分かっているだろう」


 祖父が激しく表情を歪めているが、宰相代理まで務めた先代のエクセター侯爵を思い出しているのだろうか。


「今回はカンリフ騎士家という敵がいるから、エクセター侯爵の当主継承に国王も介入しなかっただけだ。

 エクセター侯爵は国王の権威を上手く利用して、自分の当主継承に対する有力家臣の文句を封じた。

 国王も爺様も上手く利用されただけだ」


「くっ、またしてもエクセター侯爵家にしてやられたのか。

 儂は二代続けてエクセター侯爵にしてやられたのか」


「まあ、国王にカンリフ騎士家と戦う決断をさせたのだから、それほど悲観する事もないが、それでもエクセター侯爵家には及ばない」


「くっ、すまない、儂のせいで苦労を掛ける」


「過ぎた事はしかたがないが、もう二度と同じ過ちは犯してくれるなよ。

 爺様が王家に対して忠誠心を持っている事は分かっている。

 エクセター侯爵に対して対抗心を持っている事も理解している。

 だがその心が、俺を殺すかもしれない事は忘れないでくれ」


「分かった、もう絶対に忘れないし、勝手に動かない、ここに誓う」


「もういいよ、爺様、離宮に行って陛下の相手をしてきてくれ」


 祖父が肩を落としてトボトボと俺の部屋から出て行った。

 王家に張り付けた密偵の知らせで、祖父の暴走は事前に分かっていた。

 止めなかったのは、祖父の想いを踏みにじる事ができなかったのが一つ。

 もう一つは、どちらに転んでも俺には策があるからだ。

 王家が優勢ならば、祖父を前に立てて立身出世を目指せばいい。

 カンリフ騎士家が優勢ならば、俺が臣従して王を弑逆すればいいだけだ。


 爺様の前では口にできなかったが、当代のエクセター侯爵も侮れない。

 世襲宰相家でもないのに、宰相代理に任命された先代に負けない胆力がある。

 普通代替わりした直後の当主は、実績作りのために外に出たがる。

 先代の功臣や批判的な家臣の口を防ぐために、戦果を欲しがるものだ。

 それを腰を据えて外交戦略をとってきたのだから侮れない


 エクセター侯爵を甘く見たいのなら、偉大な先代と比較されたくないから、結果が明らかになる戦いを避けたと言う事もできる。

 実際にそう言っている貴族もいると思うし、当代のエクセター侯爵の全くそんな気持ちがなかったとは言えない。

 だがそんな事を考えているようでは、自分の心に隙ができてしまう。

 敵の力を最大に見積もっておいて、詳しく情報を集めて正確な力に修正する。

 なんと言ってもエクセター侯爵は我が家を臣従させようとしているのだから。


「誰かいるか、御用商人の手代を呼んできてくれ」

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